審査員ステートメント
by デボラ・クロンプ・チン
今日のビジュアルアーティストのなかで、写真家ほど自分の作品を多くの場で発表する機会に恵まれたアーティストはいません――公募展もそうした場のひとつです。グリフィン・ミュージアムのように権威ある機関が主催する公募展は、プロのアーティストを目指す人たちのキャリアにとっても、ビジュアルアートの創作に情熱を燃やすアマチュア芸術家の探求にとっても、ぎわめて大きな影響を及ぼします。また注目すべきことに、こうした公募展は現代の写真芸術全体の実態や可能性を知るうえでも、興味深いバロメーターとなるのです。
この展覧会の選考プロセスに関しても同じことがあてはまります。いっさいの予備知識を排して行われる選考は、数百件にのぼるエントリーに対するストレートな評価そのものです。第17回公募展の最終審査に残った写真家の作品は、入念な構想と撮影によって生み出され、観る者をハッとさせたり、知的・視覚的好奇心を刺激することで「解読」を迫ったりするものです。被写体や制作の方法には大きな違いがあり、それは選ばれた16人それぞれの作品に反映されています。
なかでも2人の写真家の作品は抜きん出ており、それにふさわしい称賛が寄せられています。若い女性の自分の部屋での姿を撮影したラニア・マターの作品は、家庭内での私生活や私的空間を覗くことに大きな関心を寄せる現代の写真界の動向を反映したものです。このシリーズできわめて印象的なのは、個々の被写体の際立った個性と、彼女たちの身の回りにある物の同質性とのコントラストです。一方のタラ・セリオスの作品は、歴史的な美術のテーマへの関心の増大――そこには今日的なひねりもありますが――を映し出しています。ここに写された静物に思わず引き込まれるのは、豊かな色彩のみごとな使い方によるだけではありません。一見しただけでは見過ごしてしまうような遠近法や視覚構成の洗練された使い方が、観る者をさらに惹きつけるのです。
(翻訳:幾島幸子)