キュレーション・ステートメント


まず、今月号のフラクションでキュレーションの機会を与えてくれたエディターの永田陽一氏にお礼を申し上げたい。自分の作品はもちろん、私自身の個人的な知り合いであるマレーシアやシンガポールの新進フォトグラファーたちの作品を紹介する、またとないチャンスをいただき、感謝している。現在、東南アジアでは写真に対する関心が非常に高まっており、InstatramやSNSを通じて自分の作品を発表する人も増えている。しかし芸術写真やドキュメンタリー写真は、こうしたカジュアルな写真の爆発的な人気の陰で二の次にされているように思われる。

今回私が選んだ4人は、私が「実験的社会派」(ドキュメンリーから派生したものと言っていいだろう)と呼ぶ新しいジャンルの中核を占める写真家たちだ。彼らの作品の良さを理解していただけることを願っている。

まず紹介するのは、マレーシアのナディア・ジャスミン・マフィクスの作品「無の中へ」と、アイズディン・サドの洞察力に満ちたシリーズ「あなたは誰?」だ。

ナディアの暗くドラマチックなモノクロ写真は、見る者を死と魂を発見する旅へと誘う。これは多くのアーティストや作家、パフォーマーが追求してきたテーマだ。抽象的なかすかな光のフォルムと、動物の死体のクローズアップや墓石、ドラマチックな風景とが組み合わされ、幽霊の出てくるゴシック小説さながらの異世界のような雰囲気が醸し出される。

アイズディン・サドの「あなたは誰?」は、楽しげだが心に訴えてくるシリーズ。靴に焦点を当てながら、形と機能の関係をめぐる重要な問いを投げかけ、身に着けているものからその人の人格を判断できるかどうかを問う。この一見シンプルだが効果的なシリーズは、現代社会を内省的な視点から見つめるものだ。

次の2人は、私がここ数年、作品をフォローしてきたシンガポールの写真家だ。アリシャ・ネオの「ホーム・ビジット」シリーズは、公営住宅に住む彼女の隣人たちをとらえたドキュメンタリー作品である。これらのポートレイトは生々しい迫力をもった個人的な写真であり、狭苦しいアパートでの生活の一端を垣間見せてくれる。

ジェラルディン コングの暗いユーモアに満ちたシリーズ「イン・ザ・ロー(裸の、ありのままの)」は、彼女自身の家族との関係を、グループ・セルフ・ポートレイトのシリーズを通して探っている。親密さと皮肉っぽい面をあわせもつこのシリーズは、覗き見心をくすぐると同時に被写体への共感を抱かせもする。この2人のシンガポールの写真家の作品は、個人のアイデンティティと関係性、そして人格という問題を浮き彫りにしている。

スティーブン・Ⅴ-L・リー
2015年1月、ロンドン

スティーブン・リーはロンドンを拠点に活躍するマレーシア人の写真家・写真教育者。またKuala Lumpur International Photoaward創立者。

(翻訳 幾島幸子)