スクランブル その1
Scramble No.1
*こんど再刊されるシンクマガジンの出版の仕方がユニークですね。まず、購読したい、という人を集めて最初にお金を払ってもらってから読みたい人の分だけ印刷する、という方式です。
これって、マスメディアのできるだけたくさん売ってコストを下げて利潤をあげるという原理とはまったく逆の発想なわけですよね。グローバリゼーションというのは全世界に似たような消費動向の人をたくさんふやして同じ商品をたくさん作ってマーケットを拡大して利潤をのばす、という考え方でやってきたわけです。
しかしモノがあふれかえってしまった現在の世の中はこだわりのある自分にだけに価値のある商品や作り手と買い手の顔がちゃんとわかる信頼できる商品というものの大切さがクローズアップされてきていると思います。地縁を大切にするローカリゼーションですよね。
なぜ五味さんは写真の雑誌というフィールドでこのような発想をお持ちになったのですか。
G: ShINC.の再刊については5年前に横木さんから話があったのですが、当時は全くその気はなかったんです。
そんな訳で横木さんと最初にやったのは『3000円で写真売りましょ、買ましょ展』これって、大義名分は『写真の価値観の見直し』。
でもやってる事は写真を売っているギャラリーに対して『3000円で喧嘩売っているけど、買いますか?』と言った訳で結局、今でも僕は日本の全てのギャラリーを敵にした冷戦状態。(笑)
*『3000円で写真売りましょ、買ましょ展』はユニークな企画でしたね。目黒のギャラリーコスモスで3年連続企画でやられました。
売ったのは8x10かA4サイズのみでしたね。この値段は20x200というアメリカのジェン・ベックマンというニューヨークのギャラリストが始めたインターネット販売の値段にとても近い値段なんです。
このサイトでは8x10くらいの大きさの写真は20ドル、エディション200で販売されています。このサイトのキャッチフレーズは「リミテッド・エディションxロープライス+インターネット=アート・フォー・エブリワン」というものです。
写真の場合は大・中・小3サイズあるいは4サイズくらいにして一番大きいのは30x40インチ(1インチは2.54センチ)で2000ドル、エディション2となってます。
この値段だと1作品が完売した場合の作家の取り分を50%とすればおおよそ60万円くらいになるんですね。サイトを見ていると完売している作品もかなりあるんです。
インターネットの発達とあいまって、アートは金持ちのコレクターだけのものじゃないんだ、っていう意識がたかまってきているのかもしれませんね。日本でもギャラリストのような人たちがもっと真剣にこういう取り組みをしたら新しいマーケットが切り開けるかもしれません。
五味さんはギャラリストの敵じゃなくて、商売のアイディアを提供した立場になるんですよ。その辺をちゃんと受け止めてくれる人がいないんですね。
G: GIS(五味工業規格)の『トイレに貼る写真』と言うのがあります。写真の裏に防臭シート貼ってほんとうに売ろうと思っていたんです。日本の家で写真飾れる所ってトイレしかないですから。
去年やってた『STREET FLOWERS』はその為にやっていたんです。あと贈り物、今、病院は生花だめだから写真の花持って行く。写真だから退院した後に持って帰れる。
永田さんの言う様にマーケットを作らないとダメなんです。日本に5人しかいないと言われるコレクター相手にしていては商売にならない。
ShINC.の再刊も根底にあるのは『写真の価値観の見直し』なんです。と言うのは、今年に入ってTumblrで写真をアーカイヴしていて、理由は別になくて、例えばペン、とかアヴェドンの写真集に出てない写真、ヴォーグとかバザーとかの写真が沢山あったのでただそれを見つけてTwitter,とかfecebookにアップして「こんな写真見た事ないだろ」って自慢してただけなんだけどやってるうちに膨大なアーカイヴになってしまって今では1万点を超える数になってしまったのです。
多い日には1~200件リブログしていてやってるうちにその写真が出ている実物の雑誌が見たくなって来たのです。
言い換えれば昔はコピーだった印刷物がネットで簡単に写真が見えるようになってコピーであった印刷物が僕の中でオリジナルに昇格してしまったと言う訳です。
と言う事でShINC.MAGAZINE/を出そうと言う事になったのです。
*ネットってのは便利ですけど、ネット上にあるものってどうしても予告編にみえるわけですよね。ネットで見ていてさっとやりすごすものもあれば、やっぱり本物を見たい、とか聴きたい、買いたいとかってなってくるものもある。ネットは軽く発信できる分、重みがないですね。食べ物だったらネットで見ているだけじゃおなかいっぱいになりません。
G: 出すにあたってお金の問題。
このご時世、写真業界から広告もらおうなんて考えていない。まして、流通にのせて半分以上もって行かれるなんてとんでもない。これって、日本の雑誌をここまで危機に追い込んだ大きな要因だと思っているんです。部数出さないと広告費が取れない。部数売るには流通を通さなければならない。
じゃお金どうするの?って考えたのがサポーター制なんです。
ヒントになったのはコミケに集まる人たちの会報誌、たぶん、大きなグループでも100~200くらいだと思うのだけどそれで良いじゃないかって思った訳。
一番興味があったのはグループに入らないと買えないと言うこと。最初から『Tokyo Local』東京のみの販売。「地方の人はサポーターになりなさい」と言う事なんです。
ShINC.は究極のオタク写真誌だから集まっても200人、それでいいんですよ。
*東京は広いから、目黒ローカルかな。フッフッフ・・・。
本当にコアなファンの人数はそのくらいですね。僕はアートで本当に食えるのかな、って思って、知り合いのアーティストに話を聞きに行ったことがあるんです。その時に彼は自分の活動と生活を支えてくれた人は3人のコレクターだ、といったんです。
その言葉にはっとしました。僕もずっと広告の仕事をしていたので、メッセージを伝える人は不特定のマス、というように何となくだけどずっと思っていたわけです。それが3人だけ。そうか、そうだよな、自分が本当に伝えたいメッセージを表現したり作ったりして、それをお金をだしてささえてくれようとまで思う人はほとんどいないか、もしくは数えるほどしかいないと、またそれでいいんだ、と。
今、五味さんはFacebookで ShINC.Membersというグループをつくって毎日お茶のみ話を楽しく展開してますね。五味さんがなにかお題を出すとドドッっとグループに参加した人たちがのってくる。話題のふり方とか考えたりしてるんですか。
G: ShINC.Members/は最初『デジタル押し花同好会』と言う名前で『Street Flowers』のスキャナー使った写真の5人のグループだったんです。それが『上目黒5丁目写真研究所』になって今のShINC.Members/になったのです。
もともと女性の人たちが多かったんで毎日50'sのファッション写真やスターの写真アップしてたんです。
メンバーの人たちはファッション関係の人が多かったのでファッションフォトグラファーをアップしたり。
ただ写真をアップするだけだと自分の価値観を押し付けるような事になって広がらない。
そこに『この人誰でしょう』という質問つけると例えばマリリン・モンローをアップするとマリリン・モンローに関して自分の知ってる情報をコメントして来る。
これがほんとうの『シェア』共有だと思うのです。
トイレに貼る写真だったり、写真に対してのコメントこそが『写真の価値観の見直し』だと思うのです。
いままで特定の人たちだけの『写真の価値観』を一般の人に広げる。
いわゆる『写真の民主化』なんてカッコいい事いちゃったりして、、、(続く)