田原桂一

Fenêtre by Keiichi Tahara

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朝、目覚める。一服のタバコをと、手がサイドテーブルの上を這い回る。朦朧とした意識の中で、火を移す。閉じようとする瞼をこじあけようと、おもいっきり煙を吸い込む。その一瞬、天窓から差し込んでいる朝の陽が、光としてみえる瞬間がある。煙を肺の中から吐き出す時、その光は、吐き出される空気とともにスーッと陽に姿を戻してしまって、白い壁に貼りつくいつもと同じ朝の風景へ逆戻りしてしまう。
あの陽ざしが台所につづくドアにたどりつく前までには、なんとかベッドから這い出そうと思いつつ二本目のタバコに火をつける。
朝陽で十分に温まった部屋に、逃げ場のないタバコの煙が充満していく。漂う煙が陽の中に浮かび上がり、光の所在をまた思い起こさせる。はて今日はと考えてみても、さして大事なこともなし、ハトの鳴き声につられて天窓を見上げる。もう五年は掃除したことのない窓ガラス。ホコリが積もり、雨が降り、鳥の糞がこびりついたその窓ガラスは、陽の中でキラキラ輝いている。その縞模様の隙間から青空に浮いた白い雲が流れていく。雲と窓と漂う煙の間で、焦点を失った視線が、昼に近い朝の光の中に溶け込んでいく。

この窓の作品は1974年から1981年まで約8年間、パリのカルティエラタンの屋根裏部屋から撮り始め、プラス・ド・イタリーそしてサンマンデのアパートメントまで3カ所の自宅の窓を撮り続けたものです。窓の外に広がる風景、窓ガラス、そして室内へと視線は移ろって行き、またその日その日の私の気分や感情を視線に投影して行きます。その様々な想いや視線をフィルムに感光させ印画紙に焼付けた作品です。

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