‘日本311’(2011) 余偉建
‘Japan 311’ (2011) by Vincent Yu
カメラつき携帯電話による写真の撮影は、2000年に入ってすぐに日本で最初に流行し、数年前にアップルのiPhoneとそのアプリが市場を席巻して以来、世界的な現象となっている。フォトグラフィーならぬ「アイフォノグラフィー」という新語が誕生し、新たなスナップショット・ムーブメントが巻き起こった。
その担い手は、自分――あるいは他人――の私生活を、メールやブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じてリアルタイムで伝えたくてうずうずしている世界中の何十億という若い「ネチズン」たちだ。自分らしい語り口とその場での思いつき的で型破りな手法をもって、まるで日記を書くように写真を撮るこれらのフォトグラファーたちは、余暇あるいはパパラッツィ的な味わいをもつスナップショット文化をつくり上げていった。
フォトジャーナリストのヴィンセント・ユーが、ハンディなiPhoneの特徴を生かして東日本大震災後の風景を撮影した何千枚ものスナップショットから選んだ作品を収めたのが「Japan311」シリーズである。通常のアイフォノグラフィーのもつ気取らないリラックスした雰囲気とは異なり、これらの沈鬱な映像は従来の中判カメラで撮影した際に得られるようなスケールの大きさをたたえている。またデジタル化された携帯電話を使うことで、快適とはいえない環境での撮影に伴う負担も軽減されただろう。
かつてフランスの哲学者ロラン・バルトはその著書『表徴の帝国』(1970)で、日本文化の視点に立ってさまざまな記号の解読を試みたが、ヴィンセント・ユーは戦後の長崎・広島の焼け跡を撮影した日本人写真家のような感性をもって、今回の大震災が日本にもたらした壊滅的な状況に正面から向き合い、それをiPhone画像という形で明示することにみごとに成功している。
テキスト:Blues Wong (翻訳:幾島幸子)