グラフィカルなビジュアルに惹かれるものを感じ、作品制作を続けている。 現代社会の抱える矛盾・格差・不透明な諸事情、その中で生きている現代人の感情・心理・変化 などの中にある、暗く隠れた問題を拾い上げ、ポップでタイポロジーなイメージとして昇華させる ことでポジティブな姿勢で問題提起を促す。と同時に観者の生活をささやかでも彩ることができる ような作品を目指している。

取り残された記憶 -DESERTED MEMORIES-

近年の経済不振により日本国内でも富裕層と貧困層の格差が開きだしている。今後、この中間層にいる人々の数が減り、さらに二極化が進んでいくと言われている。 時代の変化に合わせて発展していく都心部の街。それとは対照的に年々若者の数が減り、かつての活気を取り戻すことが難しくなりつつある小さな町が、地方にはいくつも点在している。嫌が応にも老いていく人間、衰退していく町、都会の利便性から一線も二線も画されていく生活。そこで暮らす人々が不幸だとは思わないが、それらの町からはどことなくもの悲しい雰囲気を感じてしまう。撮影の対象に選んだのは、それら小さな町の小さな景色。住宅・ 店舗・倉庫・工場跡など、鑑賞することを目的として造られたわけではない。 あくまでも、その町の生活の一部。時間の経過による町の衰退と共に老朽化していったもの。これらの被写体と向き合うとき、そこでの生活の難しさを感じながらも、グラフィカルな美しさを感じ、撮影を続けてきた。 これは、小さな町の記憶。 町や人の生活が老いていく中で私に見せてくれた小さな景色。 そのドキュメンタリーである。

下元直樹ウェブサイト