タクシー・イン・ザ・シー  榎本一穂

Taxi in the Sea by Issui Enomoto

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私は横浜でタクシー運転手をしている。カメラを常に傍に置き、乗客を探しながら変化に富む街の様子を次から次へとカメラに納めていく。
被写体となるのは、街を行き交う人々と、街を形作っている様々な構成要素だ。例えば、人工の光に照らされる建造物、風にそよぐ街路樹、ひっきりなしに視界を横切る自動車、上空を覆う高速道路の高架橋などだ。
街を数限りない構成要素の集合体として捉えるとき、丁度私が運転するタクシーはそれらの要素で満たされた巨大な海の中を進む潜水艇のような存在といえるだろう。
ひとりのフォトグラファーとしてタクシーに乗り込んだ瞬間から、あらゆる被写体となり得る構成要 素が私を包み込む。そして海中深くにある物体に物理法則によって多大な圧力が作用するように、私の五感に熾烈な圧力がかかってくる。
私はこの海の全貌も分からぬままに、ひたすらタクシーを走らせる。私は己の感覚を通して見たこの海を、写真という手法でこの世の次元に定着させていく。


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