2010年、私は戦争という外交手段を放棄した国 ―― 日本が抱える政治問題への関心から、そのアイコンのひとつ、
陸上自衛隊が踏破訓練を行っている富士の原生林を訪れた。この原生林は国の天然記念物として指定され、
人気の高い観光地である一方、自殺の名所としても知られることから “ 入ったら出られない ” と俗説がでる程、樹木が多く
深い森である。地図やコンパスもない中、一歩踏み外すと“どこから来たのか、どこへ行くのか”わからなくなる。この無数の木々に
覆われた薄暗い森の中、木漏れ日に照らされ、光の指す方へその体を向ける若葉を見た私は、
ここに生命の源である光 ――“空の青”が持つ何か“ベクトル”のようなものを想起した。私はカメラを頭上に掲げ、
視界をふさぐ木々の枝葉からわずかに見える空に向け、シャッターを切り、この生命の色の収集を行った。


吉田和生　ウェブサイト