Japan 倉田精二
Japan by Seiji Kurata
ここには、事件であるよりは風俗であるような光景が一種異様な瞬間に止められている。人間の動きの一瞬が止められてしまったことによって、本来なら次の時間へ流れていくハズの肉体が、突然金しばりにあって行き場を失っているといった宙ぶらりんな感じがある。それは、きわめて不安定な瞬間であり、肉眼がほとんどとらえない、まさしくカメラという機械のメカニックな視覚である。これらの瞬間はカメラにとらえられて後に、暗室の中ではじめて発見された一瞬である。
倉田の写真に写真家の存在が稀薄なのはそのせいである。カメラがまずとらえ、そして写真家は後から見る。その意味で、倉田が見るのはいつも写真として定着したもうひとつの現実である。つまり、倉田は写真的見方を提示するのではなく、写真からもうひとつの世界を読みとる読者の側に近い存在なのである。倉田はカメラを持って歩く透明人間なのである。
写真家がストロボの閃光のはるか背後に後退して、限りなく無名性へ接近している。見て、そして提示する。それが機械的に見える分だけ倉田の写真はイメージ化していないのだ。
西井一夫
倉田精二様
写真集をありがとうございます。
MON DANCE MACABREはすばらしい世界です。
美と恐怖の両方がここにあります。
「TRANCE ASIA」 はとても気に入りました。生命感あふれる本ですね。
「TRANCE ASIA」 は、世界の人びと――はるか遠くでこの同じ空を
眺めている人びとに、私の目と心を開いてくれました。
またお会いできることを心より願っています。
ロバート・フランク
1995年12月11日 ニューヨークにて