国士無双 山縣勉
THIRTEEN ORPHANS by Tsutomu Yamagata
元的屋。お好焼きの屋台は、元締めの直営だから気をつけろという。
浅草に店を持って30年。客は年々減っている。
ヘビーメタルバンドのボーカルをやっていたが今は聴くだけ。週6日はネクタイを締める。
亡くなった娘の供養のために、交通安全を唱える。
身を切り売りして半年。今も親から仕送りを受ける。いずれ保母さんに戻りたい。
連鎖販売の講師。高額な収入を得ながら、定住せずに徒歩で日本縦断中。
先月、前立腺ガンが見つかった。妻にはまだ話していない。
池の端に立って24年。本当はノンケ。先輩にビジネスとして教わった。
真冬もTシャツと短パンで過ごす。寒ければ走る。
月に一度は浅草から散歩に来る。5人の息子とは、たまにしか会えない。
新宿で小さな飲み屋を開いた。不景気の中、店はいつも満席だという。
胸に彫った自分の名前を隠す、沖縄三味線の演奏家。
クラブ歌手。20歳のとき小樽から上京し一度も帰っていない。
28歳の娘と二人暮らし。娘は家にひきこもり漫画を読んでばかりいる。
ポラロイドで子どもの写真を撮り、その場であげる。年金はフィルム代で消える。
手配師。毎日上野で日雇い作業員をスカウトする。
元ダンサー。性別を変えて20年が経つ。
西郷隆盛が好きだという按摩士
一緒に踊っていた玉ちゃんは1年前から行方不明。毎週末、一人で踊る。
6年ぶりに名古屋から桜を見に来た。犬にも見せてやりたい。
大きな蓮池がある東京の上野公園。ここで出会う人々には何か不思議と私を引き付けるものがある。彼等の外見や彼等が語ること以上の何かが。注視する者をさらに引き付ける力、目に見えず音もさせずに人を引き付ける、磁力のようなものが。ではその磁力とは一体なんなのか、私の心の琴線に静かに触れる、彼等を注視する者の心に触れるその力とは。
私はひたすら蓮池に通い、そこで出会う市井の人々と時間を共にする。個々のモデルはその人固有の来歴や個性そのものがユニークで、如何なる類型やタイプをもってしても、彼等を類別したり、特徴づけたりできない。それはまるで、相反するものが複雑に入り組んでいる人間の性質、強さと弱さ、厳しさと優しさ、美と醜など全てが、一人ひとりの人間にありのままの形で顕現し、静かにその人特有の磁力を生み出しているかのようだ。
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