動く水平線 梁家泰
Moving Horizon by Leong Ka Tai
それはひとつの挑戦として始まった。
「風景には見えない風景写真」を撮れるかと、写真論議の中で友人が私に尋ねたことに、ものすごく好奇心をそそられた。思考の後、レンズの動きにシンクロさせて、カメラを動かして撮影する「風景写真」を撮ることにした。この技法は、今日、新しくも特別でもない。今までに多くの人が、この技法を試しただろうし、今後も試されていくだろう。ただし、この技法に創造的なリリースの方法を見いだした私は、他の人より真剣に向き合っていた。
1990年代においての私のキャリアは最高潮だった。ナショナルジオグラフィック、NYタイムズ サンデーマガジン、GEO、Sternのような雑誌での企画やストーリーのために働いていた。そのほかにも法人顧客のための年間報告書や、カタログ作成にも取り組んだ。
私のカメラマンとしての作品は、構図に多大な神経をそそいだ、興味深いコンテンツがクライアントには必要である。徹底した管理と細部までのこだわりがある計画が、その後より要求されるようになった。「動く水平線」のプロジェクトはその反発として行われた。長時間露光とカメラの動きの組み合わせは、プロという制約から開放され、自由なイメージを作り出していくことが出来た。自分のイメージコントロールを失い、レンズとカメラの動きの組み合わせにまかせるという、非常に興味深い撮影経験であった。
空白の背景に線が流れるような水墨画のような写真を作り出せることに気がついた。その写真は現実を描写するのではなく、現実を抽象化した表現である。
しかしながら、この作品を作るにあたってプラスティック製のロシアカメラ(今日若者に人気のおもちゃカメラ、ロモのようなもの)の光路を大幅に改良しなければならなかった。その結果、逆に暗室でプリントすることが非常に困難になったため、撮影されたネガはデジタル技術が発達するまで箱に眠っていた。そして今、すべての写真の潜在力を実現させることができようになった。作品はフォトショップで加工せず、ネガに潜在している画像を表現するために、露出やコントラストを調整しながらスキャンしていることを強調したい。
まるで屋根裏部屋を掃除して、ピカソを発見した人のような気分だ。
(翻訳:加藤文)