グリフィン・ミュージアム第17回公募展から

審査員ステートメント デボラ・クロンプ・チン LinkIconクリックすると審査員評を読むことができます。   グリフィンミュージアムウェブサイト


少女とその部屋 ラニア・マター
A Girl and her Room by Rania Matar

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シャノン21歳 ボストン Shannon 2010


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リーム19歳 レバノン、ドーハ Reem 2010


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カーラ19歳 マサチューセッツ州ケンブリッジ Karla  2011


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アンバー16歳 マサチューセッツ州ドースター Amber  2010


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ダニエル20歳 ボストン Danielle  2010


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ベッカ19歳 マサチューセッツ州ブルックライン Becca  2010


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ミミ17歳 マサチューセッツ州ウィンチェスター Mimi  2011


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エリス20歳 マサチューセッツ州ジャメイカ・プレイン Ellice  2010


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クリスティラ19歳 レバノン、ラビエ Christilla  2010


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マディー・クロエ16歳 ニューヨーク州コーンウォール Maddie Chloe   2010



人生の移行期にある10代の少女や若い女性を、彼女自身のプライベートな空間――自分の部屋という、外界のなかに浮かぶ “胎内”のような場所――で撮影する。それがこのプロジェクトのねらいです。

10代の女の子をもつ母親として、私は娘が少女から大人の女性へと移行していくのを目の当たりにしました。彼女のなかに徐々に大人の人格が形を現し、それまでの屈託のない世界から自意識に目覚めていくさまに心を奪われました。そこで娘とその女友達を被写体にして写真を撮り始めたのですが、すぐに気づいたのは、彼女たちがお互いの存在を非常に意識していて、グループのなかにいることで、自分をどう表現するかに大きな影響が生じるということでした。そこから、それぞれの少女を一人ずつ私的な空間で撮影するというアイデアが生まれたのです。

まず一人ひとりの少女としばらく一緒に時間を過ごし、緊張感がほぐれるのを見はからってから撮影を始めます。そうすることで撮影が親密で素敵な共同作業となるのです。私の目の前にいるのは、大人の世界の入り口に立って子どもの自分に必死でしがみつこうとしている女性、二つの世界の狭間で人生の過渡期となんとか折り合いをつけ、これから自分がなろうとしている人間に適応しようとしている、そんな女性です。ぬいぐるみをたくさん並べたベッドの上に飾られたロック歌手や政治家やトップモデルのポスター。彼女たちの世界に対するイメージを映し出す重要なパーツとしての鏡。身の回りの細々とした物や写真、散らかる服、ピンクや黒、化粧品などが雑然と散らかる部屋は、外の世界にぽっかり浮かんだ母親の胎内のように暖かく、安心感を与えてくれる場所のようです。

被写体としてはまずアメリカに住む10代の少女を選び、やがて私自身が10代から20歳まで体験し、最も馴れ親しんだ二つの世界――アメリカと中東――に住む少女たちへと広げていきました。その結果、このプロジェクトは私にとってきわめて個人的な意味をもつものとなりました。徐々に子ども時代から抜け出して女性としての新たな自分と向き合い、どこであれ周囲の世界にどう溶け込んでいくかを自覚しはじめた少女たちが直面する問題は、文化や宗教、育った環境の違いにかかわらず驚くほど共通していることに、私は大いに興味をそそられました。これらの少女たち全員にとって、自分の部屋は自分が守られていると感じられる、安全で安心できる場所なのです。

これらの若い女性たちのプライベートな空間で彼女たちと共に過ごしたことで、私は彼女たちの私生活とありままの彼女たちの姿を覗き見る貴重な機会を得ました。私が善悪の判断をするのではないことを感じ取った彼女たちは、このプロジェクトに自分から積極的に参加してくれ、私の仕事はただそれに従うだけでした。私を信頼し、貴重な協力をしてくれた彼女たち一人ひとりに、心から感謝しています。


ラニア・マター
マサチューセッツ州ブルックリン在住の写真家。

(翻訳:幾島幸子)

ラニア・マター ウェブサイト
A Girl and Her Room 写真集