マーティン・パー インタビュー
Martin Parr Interview 2013/June
フラクションマガジンジャパン(以下F): あなたの本 “ Photobook”はとても面白い本ですね。単なる写真集の歴史でもないし、秀逸な写真家の写真集をコレクションしたものというわけでもない。写真が暴力的に世界を暴き出してきたようすや、写真がとりつかれた視る欲望や収集したいという欲望がありありとわかるような本になっています。
ところで日本の写真集はHiromix(テキストでは左内正史Masafumi Sanai)で終わっていますが、その後集められた日本の写真集で印象に残るものはありましたか。
マーティン・パー:昨年出版したラテンアメリカのフォトブックはご覧になりましたか?(マーティン・パーのウェブサイトには出ていなかったので内容を確認できていない。)実はThe Photobook Volume3が来年の春に出版される予定なんです。それと中国の写真の歴史の本も出版予定です。
Volume3では20〜25人の日本の写真家の写真集をとりあげる予定です。今はまだ名前を言えないんですが、プロテストがテーマの写真集やもっと古い写真家のものもとりあげています。プロテストがテーマのものについては1章をさいています。日本ではこのテーマの写真集は多いですからね。
日本では数多くの写真集が出版されるので、全部についていくことはできませんができるだけ日本の写真集のことを世界に見せるチャンスをつくろうと思っています。写真の歴史のなかで日本の写真集をはずすことなんてできませんからね。
F: 日本の写真家のプリントでコレクションされているものはなにかありますか?また日本の写真家のプリントは欧米のプリントの相場と比較してどのように感じられていますか。
マーティン・パー: そんなに多くはないですけど2、30枚は持っています。日本のオリジナルプリントは驚くほど安いですからね。日本では写真のコレクターがいないでしょう。東京は世界の中でもものすごくたくさんの写真集に出会える場所ですが、オリジナルプリントを買う人がいないというのは私にとってはとても不可思議なことなのです。森山大道と荒木経帷以外の写真家のプリントは売れないでしょう。
私のオリジナルプリントももちろん世界中で販売していますが日本ではマーケットがないので私の写真を販売するためのディーラーを探そうという気もおこらないのです。
F: 2011年の津波と福島原発事故以降の日本の社会についてどのように感じられていますか。
マーティン・パー: 東京のうわべだけを見ているとなにも変わったようには思えませんね。もちろん被災地にいけば話は別でしょう。川内倫子やホンマタカシも3.11に反応して作品を発表していると思いますけれど、それに対しての評価があらわれているようにも思えないのです。ストレートに被災地を撮影したジャーナリズムの写真ではなくて3.11以降、写真家にどんな心象の変化が起こったかと言うことについての反応に興味があります。
F: 今回はプライベートの訪問が主な目的と聞いていますが、日本のどんなところに興味をお持ちなのでしょうか。なにかの収集が目的なのでしょうか。
マーティン・パー: 今回の来日の目的はアイヴァン・ヴァルタニアン氏の企画によるポップアップレストランとポール・スミス・スペースでやったポップアップブックのためなのです。
http://www.goliga.com/instant/
http://www.goliga.com/popup/
F: 日本の写真集はどうやって探しているんですか。
マーティン・パー: 日本で写真集を探すときはコレクターやディーラーと話して紹介してもらったり、神保町の本屋にでかけたりして探しています。
60年代から70年代にかけて偉大な写真集がたてつづけに日本からでてきたわけですが、もうそのような時代はやってこないでしょうね。あの頃は日本は閉鎖的で自分の国のことだけの世界を表現していたともいえる状況だった、それと写真集のデザインは他の国よりも進んでいたと思います。
もちろん現代の日本の写真集にもとても興味をもっています。最近のものはインターナショナルで世界的な傾向とも似てきていると思います。日本独特の特徴というものもあると思いますが、60〜70年代のような写真集とはまったく違うと感じています。
今はインターネットが発達したせいでとても開かれた状況にあるせいでしょう。
F: 2009年のアルル写真祭のディスカバリーアワード(世界からノミネートされた新人写真家の賞・ルシアン・クレルク、フランソワ・エベル、マーティン・パーなど15名のキュレーターや写真家から推薦された写真家のあいだで争われる)ではリトアニアの写真家Rimaldas Viksraitisを推薦されましたね。どんな風にして新人をみつけていらっしゃるんですか。
マーティン・パー: いい作品は旅行したときなどにいつも探しています。Rimaldas Viksraitisはカラーやコンテンポラリーな写真が多い中でシンプルなモノクロの写真で故郷の小さな村で起こる出来事を記録していたのがとても評価されました。アルル以降もどんどん評価が高くなっています。世界中で展覧会もしていますけど日本ではまだ紹介されていませんね。
F: あなたはアンリ・カルティエ・ブレッソンから、宇宙人みたいだ、といわれたそうですけれど、新しい世代アレック・ソスにはどんな印象をもたれていますか。
マーティン・パー: 彼はすばらしい写真家です。ブログもすばらしいです。
F: ジョン・ゴサージュさんとも親しい間柄とうかがっています。
マーティン・パー: とてもいい友人です。日本の写真集にすごくくわしいのです。よく僕にも写真集を紹介してくれます。本友達ですね。一緒に仕事もよくしますよ。
F: それはどんなプロジェクトなんですか。
Maritn Parr: アメリカを旅行して撮影した写真集でOBVIOUS & ORDINARY(AMERICA 2006)というタイトルです。いっしょにイギリスでも撮影しています。名前をふせて出版したので秘密なんですよ。あ、これ言っちゃいけなかったんだ。(と言っていたのだが、ウェブサイトにはちゃんと書いてある)
http://www.photoeye.com/bookstore/citation.cfm?catalog=ZD220&i=&i2=
僕のウェブサイトには今まで出版した写真集が全部載ってますし、最近新しくしたのでぜひ見て下さい。
マーティン・パー ウェブサイト
F: マグナムの写真家は世界のさまざまな地域に行って撮影していると思いますが、あなたはどのような場所に興味があるのですか。
マーティン・パー: 世界中どこにでも興味がありますね。いろいろな場所に行っては写真集をだしています。日本ではスーパーラボと“JAPAN” という写真集を出しました。たしかもう売り切れてしまったとおもうけれども海外でも販売したものです。そんな風に大きな写真集ではないけれどインドとかラテンアメリカとかいろいろな国で写真集をつくっています。
F: “JAPAN”を出版してどんな反響があったのですか。
マーティン・パー: 毎年2,3冊はだしているのでね、また出たかって思われているかもしれないですね。そんなにサプライズじゃないのでしょう。まあ荒木よりはサプライズかもしれないけども。
F: あなたは現在の写真界にとってとても影響力のある人物です。今、フォトワールドで興味のあることはどんなことですか。
マーティン・パー: 写真集のリサーチを最後までやりたいですね。最後の地域は中国です。中国と日本は隣国なのに日本人は中国の写真にあまり興味がないみたいですね。どうしてでしょう。アジアの国の人達はおとなりさんに興味がないようにみえるのが、すごく不思議ですね。
なぜ日本人は西洋には興味を示すのに中国に興味がないのでしょうね。
F: 若い人達はアジアに興味を持っている人も増えていますよ。シンガポールやベトナムとか。
マーティン・パー: 写真界ではシンガポールやベトナムはマイナーな存在です。中国に比べるとですが。中国には写真の文化がありますし歴史もある。そして今も発展しています。他のアジアの国とは比べものにならないでしょう。プロパガンダ関連の写真もすばらしいものがあります。
中国に行けば中国人も日本の写真集には興味がないようにみえます。皆欧米に興味があるようですね。不思議ですよね。しょっちゅうけんかしているからでしょうか。
最近、僕がキュレーションしたマグナムブックコレクションは香港の人が買って、香港で写真美術館を作って展示する予定になっています。
ところで、あなたはCristina de Middelを知っていますか。彼女は自費出版で写真集を出して世界的な話題になり、ソールドアウトになってしまった今注目の写真家なんですよ。フラクションマガジンジャパンでインタビューしたらどうですか。
*僕もそうなのだが、マグナムの写真家ということやいかにも人を食ったシニカルでスナップ写真的な作品という要素でマーティン・パー氏の核心について思い違いをしてしまうことが多いように思う。今年リニューアルしたというウェブサイトを見ているとイギリス人的な諧謔や韜晦、風刺精神に満ちていてとても面白いし、なによりも食べ物の価格表やらぬいぐるみの顔のアップ、ビーチサンダルを履いた足の爪のマニキュア等々、この世界の人間にまつわるあらゆる事象をことこまかにカメラにおさめてしまおうという旺盛な好奇心に満ち満ちているのがよくわかる。
写真界のフランク・ザッパのような人なのかもしれない。カメラそのものが人間に化けているようなところもあって、だからこそカメラの欲望の表現である写真集の偏執狂的な収集者でもあるのだろう。
氏の写真が人間に対する皮肉に満ちているという見方もあるが、上流階級のパーティーやエアギターコンテストに集まる人間たちのしでかすとんでもなくくだらない現象のディテイルについてを否定も肯定もしていないのだろう。氏の収集した人間世界のありさまはそれこそが人間が人間たりうるとても愛すべき断片たちなのだ。
写真はしょせん世界の表層しか写せないものだ。そこに世界の真の姿などがあらわれるなど期待すべくもない薄っぺらいものにすぎない。しかし「群盲像をなでる」ではないけれど世界の表層をなでて、なでて、なでつくしているとふっと世界の深奥があらわれてくる写真の魔術的な瞬間があるものだ。その写真の魔術を知っている写真家は森山大道、川田喜久治、マーティン・パーといった希有の写真家なのかもしれない。「毎日写真を撮る。一日も休まずに。」(ヤング・ポートフォリオ展2012パンフより)という川田喜久治氏の姿勢。世界中をくまなく探索して写真化していこうというマーティン・パー氏の姿勢。
今回来日したおりの講演会を聞きに行った方のブログを読んでいたら、写真集の蔵書が約12000冊もあるそうで参加者からもし火事になって1冊しかもちだせないとしたらどの写真集を持ち出しますか?という問いに対して2冊でいい、両手で持てるからとことわりながら、川田喜久治の「地図」と「Paris」(De Moi Verか?)と答えたそうである。
インタビューのあとに駆けつけてくれた倉田精二氏と。
倉田氏にプレゼントする写真集にサイン。
マーティン・パーのウェブサイトから撮影シーンなどをご紹介します。このウェブサイトほんとに面白くできていますので必見です。
サウナにも裸になって潜入。
これはおそらくエアギターフェスを撮影しているのでしょう。とにかくあらゆる機会をとらえて撮影しまくっています。
2007年からキャノン5Dを使用しているそうなので、セレクトもノートPCを使っているようだ。
サダム・フセインウォッチの写真集。とんでもない収集狂なのです。
Sweet Memory:Chinise Wedding Albumという自費出版写真集。チャイニーズ・ウェディング・スタジオで撮影されたセルフ・ポートレート。
ご丁寧にQ&Aまでついていて彼の細々したことがすべてわかってしまう仕組みになっている。特にデジタルに変更した理由が面白い。またわざわざなんでそんなに日本の写真家に魅せられているのか?という質問の項目がある。答えはぜひ読んでみて下さい。
ウェブサイトトップページにあるセルフ・ポートレート集