ホウキヤスノリ インタビュー

Yasunori Houki Interview 2013/September

永田陽一(以下*): ホウキさんは表参道にホワイトルームという革新的なフォトギャラリーを運営されていたことがあって、そこではニューヨークのチェルシーのギャラリーのように大型のオリジナルプリントを展示販売されていましたね。ジョエル・マイエロウィッツの新作や細江英公の『抱擁』の大型作品は圧巻でしたし、値段も100万単位でニューヨーク並でしたので、当時ほんとにこんなギャラリーが日本にあっていいのかな、ってびっくりした記憶があります。
 現在はスーパーラボというユニークな写真集の出版社として独自の路線を歩まれていますね。なにか型破りなくらいに国際的な視野で写真集作りを進められているように思います。
 僕もここ数年海外のフォトマーケットのリサーチをしているんですが、まず写真家の意識が若い人からキャリアのある人までいかに世界のフォトマーケットに進出していくかっていうことを日々考えて行動していますね。その辺が日本の写真家の意識とずいぶん違っているように思いました。

ホウキヤスノリ(以下H): そうですね。すでに著名な人も含め、みんな世界に行きたいんだと思うんですよ、本音は。だから行きたいんなら正直に所信表明をすれば道は開けると思います。行きたいのか行きたくないのかはっきりせずに、誰か誘ってくれれば行ってもいいんだけどな的なスタンスだとそれは行けないですよね、いつまでも。行きたいならそれなりのプロセスがあると思うので、それなりの努力は必要になりますよね。努力したからって行けるとは限りませんが、少なくともいろんな道が開けてくるということです。
 日本の作家の多くはどこか、頑張っていれば誰かが見つけてくれるんじゃないかと皆さん思ってるフシがありますね。

* 待ちの姿勢になっているんですね。

H : そうです、ちょっとした幻想というか、シンデレラストーリー的な・・・、一生懸命撮っていればいつか誰かが僕のことを発掘してくれてあそこに連れて行ってくれるんじゃないか、と。

* 王子さまがやってきて・・・

H: でもそれは甘いですね。内にこもっていたら何も始まりません。僕らは今、展示スペース等があるわけではないので、お手伝いが出来るとしたら、それは、出版という形態、それとエディションもののプロデュースになります。

* オリジナルプリントが入ったものですね。

H: そうですね。もしくはポートフォリオボックスです。今しばらくの間はこの辺りに特化しようと思っています。

* 出版にスイッチされてからどのくらいになりますか。

H: 今年(2013年)で5年目に突入しました。最初はペラペラの中綴じの本からのスタートでしたが、来月には (9月) 50冊の大台に突入します。
 最近では初期の頃の2800円の本がアメリカのアマゾンで800ドルくらいで売られていたりするのを見かけるようになりました。これは素直に嬉しいですね。
 これがスーパーラボの最新刊 (東松照明 "make" ) です。

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* あ、この表紙の写真は見覚えがありますね、これ篠山さんが撮られたものですか。

H: いや、これは森山さんの花嫁衣装姿や深瀬さんの原始人等と同じ東松さんの一連のシリーズです。

* う〜ん、これいいタイミングというのかなんというのかいいようがないんですけれど・・・

H: このプロジェクト、実は2年前から動いていたんです。で、いいものを作ろうということで時間をかけて作業を進めていたところ、突然、訃報が舞い込んできて・・・。
 この本、タイトルから作品の並び順まで全て東松さんの手によるものなんですよ。ちなみに"make"というのは東松さんの定義ではセットアップ写真のことを指すのですが、そのセットアップものを一冊にまとめたのがこの本です。たとえば画家は自分の肖像画を描きますが、写真家は作品の中に自分のシルエットを入れることがあります。自分のシルエットが入ったものはmakeに分類するというように東松さんは自分なりに定義をされているんですね。
 こっちのシリーズはこの漂着物の場所を移動させてるそうです。でもいじってからすぐ撮るのではなく、1週間程、放置しておいてから撮るそうです。

* 僕はこの沖縄の海岸で撮影された漂着物はすごく好きなんですけどね。へぇ〜、そうか、いじって放置してるんだ。

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H: 巻末には東松さんが原稿用紙に直筆でmakeの定義に関して書き記した文章のコピーが納められています。"make"は通常版が限定500部、東松さん初のシルクスクリーンプリント付き、スペシャルエディションが3種類、各30部ずつです。
 こちらは、澤田知子にアンディ・ウォーホールの財団から依頼があって制作されたシリーズ "Sign"です。これは限定100部だけ。こんな形で通し番号と作家のサインが入っています。ケースはアクリルのケース、それにシルクでタイトルをいれています。
 今春、リリースした新刊がこの2冊なんですけどこの辺からスーパーラボのレーベルとしての方向性が明確になってきています。何が変化かって言うと、より真剣なモノづくりに移行したということでしょうか。
 僕は会社の規模を競う事には何の興味も無いのですが、クオリティやモノとしての格好良さではどこにも負けたくない。写真集、どっちが格好いいって単純に比較されたときには、それはもうシュタイデルだろうが我々のようなスモールプレスであろうと関係ありませんから。それらが横に並んでも、負けないものにしていこうということです。全体のアピアランスであったり作り込みであったり・・・、先駆者の人たちにに、良くここまでやったなって、うならせるようなものにしていきたいですね。

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* マニアックにしていこうということですね。

H: 今までも僕らは十分マニアックだったとは思いますが (笑) 、その方向性が変わってきています。初期の頃、我々がマーケットに受け入れられた理由というのは、ZINEの様なカジュアルな装丁にもかかわらず、参加アーティストがジョエル・マイロウィッツやアレック・ソス、トッド・ハイドといったそうそうたる顔ぶれという今までにありそうで無かったカテゴリーを創出したことだったのです。

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トッド・ハイドのオリジナルプリント付写真集。限定20部。

* サブカルチャー的なノリですね。

H: その要素も少々加味していました。ただやっぱり続けて行く中で、僕らのフォローワー的な人たちが現れ、そうこうしているうちに写真集の出版ブームが訪れた。それで、色々と試験的なこともしながら方向性を模索しきたのですが、やっと方向性が見えてきたわけです。

* マニアックになればなるほど制作費はかかってくるので単価の決め方とか販売経路とかむずかしくなりますよね。 

H: そうですね。でも僕はもともと出版あがりの人間ではないので、非常にフレキシブルです。その辺りは。日本は元編集をされていたりと、根っからの業界の方が多いですね。

* 一言で言うとすごくまじめな方が多いですね。

H: そう感じます。もともと僕らのやっていることってマスを相手にしている商売じゃないんです。数量的に言っても500部とか1000部ですから。世界中に僕らのファンが500人とか1000人いてくれればいい、と。理想を言うと、その人達に、いいでしょって紹介しながら手渡しで売りたい。昔の演歌歌手のCDの手売りみたいに (笑) 。
 だから今、僕たちが考えているのは世界のコレクターに喜んでもらえるモノづくり、それに尽きます。

* 僕たちには世界のコレクターの顔というものが見えにくいのですが、そういうお客さんの顔って言うのは具体的に見えているのでしょうか。

H: よく見えています。必ずパリフォトやカッセル(ドイツ、International Photobook Festival, Kassel)にいらっしゃるお客さんの顔が思い浮かぶくらいです。

* なるほで。その辺を体感できるかできないかというのはとても大事ですね。

 これ、東松さんのプリントつきのものですか。

H:これは "make" のスペシャルエディション (特装版) です。今お見せした本に加え、作品が収められたフォリオが入っています。作品はシルクプリントです。

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* 版を起こしてシルクで刷られたんですか。

H: そうです。ここはブックマットにしてあるんですが、通常、こんなことする必要はないんです。ちなみに欧米のものだとよく封筒に写真がはいっていて、ただ本の間にはさまっているとか、もっとひどいと写真がそのまま本の間にはさまっていたりします。

* あ〜、僕もパリでイリーナ・イヨネスコのプリントがはいった写真集を見たことがあります。小さな本で写真が2枚ついてるんですがやっぱり本にそのままはさんでありましたね。

H: たぶんここまでのクオリティってのはジャパンメイドならではだと思うんですね。
特に僕らはディテールフェチなので (笑) 。でもこれをやっていけば欧米のファンはついてきてくれると思うし、こういうことをコツコツとやり続けることが世界のマーケットの中に自分たちの居場所を創る唯一の方法だと思っています。
 それなので、最近はかなり真剣なものづくり体制に変わっています。

* 最初の写真集をつくられた時も日本で印刷したんですか。

H: そうです。これからもSUPER LABOの本は日本製にこだわりたい。別のレーベルのOmoplataからは新たな試みとしてドイツで印刷した本もリリースされます。

* 今年のパリフォトに出展されるそうですね。何か準備はされているのですか。

H: ええ、今年はGrand Palais(パリフォト会場)での展示が決まっているので、かなり濃いプログラムを準備しています。
 まず一押しは "LOST HOME" という写真集のプロジェクト。
実は去年、写真家のテリー・ワイフェンバックとハービー・ベンゲとディナーを食べた際、また、ONE DAYの様なプロジェクトをやりたいねという話になって (2年前にドイツの出版社から発売された、世界の10人の作家が"ある1日"を 撮影してそれぞれが1冊の写真集にまとめたもの) 、でも同じようなことはしたくなかったので、もっとヒネリを加えようと・・・それで、じゃあ、おまえがお題を出せと、そのお題を基にそれぞれ写真集を作ると、で、ああだこうだ言いながら結局、お題は「小説」になったのですが・・・、
それで10人の写真家による10冊の写真集と小説を加えた11冊をセットにして次の (2013年) パリフォトで発表しようということになったんです。ちょうどパリフォトの最終日だったと思います。
 で、いざ真剣に企画に落とし込もうと考え始めたら、小説も著作権の問題とかあって、なかなか丁度良いものがもちろんないわけです。それで、誰かに小説を書き下ろしてもらおうということになりました。それで脚本家の一色伸幸さんに、企画の主旨をお話しして快諾していただきました。あの『私をスキーに連れてって』の映画の脚本を書いた超ヒットメーカーで、日本アカデミー大賞脚本賞もとっていらっしゃる方です。
 この辺りからこのプロジェクトは当初の想像をはるかに上回る大きなプロジェクトになってきました。

* どんな作家が参加しているのですか。

H: 日本は森山さん (森山大道) とホンマさん (ホンマタカシ) 、海外はクリスチャン・パターソン、JH・エグストローム、ロー・エスリッジ、ロン・ジュード、ベルティアン・ヴァン・マネン、スラビカ・ペルコビック、テリー・ワイフェンバック、ハービー・ベンゲの10人です。彼らがお題の小説を読んで、自分の思うがままに写真集をつくります。作家にやる気を出させるために表紙のデザインやタイトルのフォントもあえて自由にしました。もうすでに何人かのラフデザインをpdfで見ていますが、かなり格好いいですよ。
パリではパリフォトの会場のみならずコレット (セレクトショップ) でもサイン会を行う予定です。乞うご期待です!
 他にもジェエル・マイロウィッツの黄昏時の海のそばに佇むプールを撮った作品と黄昏時のランドスケープを撮った作品の2つをまとめた"Between the Dog and Wolf"、これは必見の美しさです。今回、ジョエルには文章も書いてもらっています。又、森山大道の未発表作品 "Marrakech" 。
 これは数多い森山さんの写真集の中でも、いままで見た事のない判型とデザインになっています。「森山さんが撮ったマラケシュの街」を堪能できる仕掛けがしてあります。あとはアントワン・ダガタとの非常にユニークな取り組みも必見ですし・・・これ以外にもテリー・ワイフェンバックの新刊、クリス・ショウの新刊・・・てんこ盛りです。
ジェエル・マイロウィッツ、アントワン・ダガタはサイン会も開催予定です。

* いや〜、ものすごく精力的に制作されているんですね。楽しみです。もう少しこれまでつくられた他の作品も見せていただけますか。

H:この細江さんの本も僕が作った本です。この時ぐらいからかもしれませんね。いつか写真集を真剣にやろうかと思ったのは。

*『抱擁』ですか。

H:『抱擁』と『薔薇刑』です。ホワイトルームで開催した細江さんの展示にあわせて作った図録です。図録にしてはかなり力が入った作りにはなっていると思います。
 展示は『抱擁』の作品を大判にして新たにエディションをつけたシリーズと『薔薇刑』のプラチナプリントでした。

* 僕はあれすごくいい企画だったと思うんですよ。ぼくも『抱擁』は好きなシリーズなんですけど。

H: いいですよね。

* あんだけ大きくなったときに、昔ジャストタイムで出てた時の『抱擁』と違ってものすごくモダンなプリントに仕上がっていましたよね。あの辺に僕は結構驚いたんですよ。

H:元の作品がしっかりしているのでいつ見ても色褪せないという・・・、もう一つの要素としては額装ですね。フレームのサイズや色には非常にこだわりました。

* あれはたしかプリントから起こしているんですかね。

H: ネガじゃなくてプリントからじゃないですかね。

* 僕も存じ上げている中島秀雄さんという当時のアシスタントの人がたぶんプリンターとして焼いたプリントからおこしているって細江賢治さんから聞いた気がしますね。中島さんのプリントがなければできなかったかな、っておっしゃってた。ぼくも写真集を持っているんですけど、当時のものはここまで印刷がよくないんですよね。う~ん、このへんがすごいですよね、なるほどぉ。

H: さっき話に出たエディションものなんですけど、これは森山さんの『沖縄』です。

* 全部オリジナルがはいっているんですか。

H: ええ、全部オリジナルです。昨年、僕が出版した『沖縄』の本の中から森山さん本人に5点選んでもらいました。どのイメージも森山さんらしさ満載です。

* これは森山さんが新しくプリントしているんですか?

H: これは森山さん本人ではなくて、いつも森山さんのプリントを制作されている方ですね。

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* なんか写真って1枚で買うってことも飾ったり、いろんな意味で楽しいことではあるんですけど、こういうなんかボックスになったり写真集になったり写真集にプリントがついていたりっていうのはなんかワクワクするかんじってのがすごくありますよね。

H: ちょっとお宝みたいでね、僕はすごい好きですね。

* これからこういう市場ってどんどん可能性が出てくるような気がします。

H: ええ、ぼくはこれでアートバーゼルに行きたいわけです。

* バーゼルなんですか、これはちょっと意外なことを聞いちゃったな。

H: もちろん通常ではバーゼルの敷居はとてつもなく高いです。ただエディションは僕にとってチャレンジのしがいがある部門です。

* エディションって部門があるんですか。

H: ええ、バーゼルとサウスビーチ(マイアミ)の二つにはあります。

* ボックスセットもいろいろな仕様を考えることができますし、デザインや素材に凝ったらすごいことになってきちゃいますよね。

H: これは下町の職人の方で黒檀の材を少し持ってる方に作ってもらった黒檀のボックスです。でも中に入っているのはストリート系の作家の作品。こういうの考えてる時は楽しいですよ。

* いやめちゃくちゃ楽しいですよね。

H: これとこれと組み合わせたらこうなるかなぁ、ていうのがね。

* 日本でしか成立しないことってたぶんいろいろありますからね。和紙もあればいろんな素材があるんで。

H: どこまで日本らしさをだしてっていうのもむずかしい。あんまり民芸チックになってくると・・・

* うん、それはダメですよね。

H: ちょっと重いかな、って気はします。

* モダンなんだけどよくよく見てみると日本の贅がこらしてあるってのがいいですよね。

H: まさしくそういうのやってたんです。柳宗理のバタフライの廃盤色を限定で復刻させたりだとか・・・。

* 写真界に入る前ですね。

H: そうです。トム・ディクソンがハビタのディレクターに就任した際に復刻したファイバー製の柳スツールを日本で流通させたり・・・、今は写真になりましたけど以前はデザインもので同じようなことをしていたので、そのノウハウがまるまる残ってるんです。

* なかなか手に入りにくいものでちょっといいデザインだったりすると欲しくなりますね。

H: そういうのばっかりやってました。

* もともとマニアックな世界がお好きだったんですね。

H: それで小物からだんだん家具に移行して、で家具から全体のインテリアコーディネーションになって、それでアートになりました。インテリアコーディネートすると、最後のワンピースがアートなんですね。で、アートが一番楽しくなってきて・・・、でも今更、現代アートの世界に参入するのは難しいなと、じゃあ写真に特化しようということで写真になったんです。

* でもとても適切な時期でしたね。

H: そうですね。でも写真自体は子供の頃からとても身近だったかもしれません。よく自分のOM1で写真撮ってハンザやキングの現像タンクで現像して友達の親父の暗室でプリントしてましたから。

* 好きなことをして商売になるかどうかっていう見切りもありますし、日本でファインアートフォトで食っていくというのはすごくむずかしいですね。

H: 人それぞれやり方もあるんで僕はそれをとやかく言うつもりはありません。でも、昔ながらのやり方をされてる所とかを見るともうちょっとこうすれば良くなるのになって思うときはありますね。せっかくいいコンテンツ持ってるのにおしいなとかね。
 だいたい奥付日本語だけにしていたりとか、何故?って思います。

* そうですね、そういうところは禅フォトギャラリーのマーク・ピアソンさんがずいぶんと指摘してますね。マークの外国のお友達とかが見に来ても日本語だけの解説だとわかんないって、そこでもうそれ以上の興味がストップしちゃいますからもったいないですね。

H: 僕らの本は奥付は英語表記しかしていません。立ち上げたときは日本で売るつもり一切無かったんです。

* 販路に関しては海外のアートフェアにおでかけになるのと、インターネットでの販売という事に力をいれられたわけですか。

H: そうです。フットワークは軽い方です。

* あ~、その辺のフットワークが写真以前におやりになられていたお仕事で会得されたものなんですね。バイヤーさんとかディーラーさんっていうのは足で稼いでなんぼですから、絶対に自分で見ないと納得しないということがありますよね。

H: そう、だからどっかに持って行って見せるというのはまったく苦にならないです。前の商売がすべてそれだったので。

* 現物ありきですものね。その辺のビジネスの感覚が日本の写真をやっている人にはまだないっていうか、ま~、ビジネスって言う認識自体がないかもしれないですけど。

H: 生真面目。

* めちゃ、まじめですよね。ていうか、これ売ってるんですよね?ってぼくはいつも思っちゃうんですけど。

H: じゃ、なんのために撮ってるの。撮ってどうしたいんですかって考えればおのずと答えは出ると思うんですけどね。作家なんだからより多くの人に自分の作品を見てもらえればそのほうが幸せでしょ。じゃ~、見てもらうためにはどうしたらいいかっていうことですよね

* そうなんですよね。だから日本の写真業界、僕はギャラリストもそこのところがあまりうまくないな、と思うんですけど、写真家も含めてお客様が最終的に買う時にどんな気持ちで買うのかなっていうところから立ち上がってくるものに対する創造力がちょっと少ないかなって。だからなんか撮りっぱなしってかんじなんですよね。一生懸命やってるんだけど。

H: そうですね。でもじゃ、撮った後どうしたいのってことにあまり考えがいってないです。だから額装のことなんてとても疎い。まあ最終的な見せ方をどうするかで大きな違いがでてくると思ううんですけど、もしホワイトウォールに掛けるのだったら額装が最終形なんで額に関して詳しくなければいけない。ほんとに1ミリ2ミリ違うだけでものすごく見え方が違ったりするのに、非常に無頓着でアリモノを使っちゃたりとかね。

* そうそう、フォトギャラリーインターナショナルの写真専用のフレームが黒とシルバーの二つだけだったんですね。で、もう写真と言えばあのフレームしかなかったっていう時代があって。僕が2004年くらいかな、自分の個展をやった時なんですけど、基本的には最後にオークションでみんなに買ってもらうことにしてたんで額はもういろいろ調べて、いろんな額のタイプをつくって展示したんですよ。そしたら来てくれた人が、その人は写真業界の人なんですけど、「永田君、これは額の展覧会かね」って言ったんですよ。

H: そのくらいやらなきゃいけないですよね。オリジナルプリントを売っていくんであれば。

* 写真集もそうですよね。型にはまったものをまじめな形で出していくっていうよりは、写真家は自分自身でも、大概コレクターの要素もあるんで自分で見たときにこれ欲しいなっていう形ってやっぱりありますよね。

H: だから僕らは決まった判型は無くてとにかくその作品のシリーズにあったものを考えます。それでそろばんをはじいて見合うと思われるバジェットの中にそれを落とし込んでいくんです。

* そう、なんかね、ホウキさんのお作りになる写真集を見てると値付けがうまい落としどころに来てるな、ってかんじるんですけど。

H: とても大切です。

* これで、このお値段だったらいいな、って気持ちが動くような値付けですよね。

H: これね、元田敬三の写真集です。僕はこれすごい気に入ってて、これを作る時に、これってワイドが33センチなんですけど30センチまでであれば機械で製本できるんです。だからずっと安く出来ます。でも、この幅だと全部手作業にならざるを得ないんで、すごくコストが上がってしまう。でも、この面白さはこのサイズじゃないとでない。最初はデザイナーの原さんだとか作家の元田さんもピンときてなかったんだけど、ぼくはパノラマをハードカバーにするのはきらいだからこういうペラペラめくれるやつにしようと、それで全部完全に見開きの裁ち落としでその分スリップケースをつけましょうと、そうするとこのクニャクニュしたものがきちっとして収まって店頭に並べられると。で、店頭に並んだ時はこのサイズってあんまりないんで目立つと、さらにもっと目立たせようということで赤くすればいいんじゃないかって。

* あ~、この色ってすごくいいですよね。

H: ちょうど今、エプサイトで元田さんの個展がスタートしました。大判プリントがたくさん並んでて格好良いですよ。

* そっか、これパノラマカメラで撮ったんですか。

H: そうです。

* これはおいくらですか。

H: これは三千円後半です。(3885円)これSUPER LABOではなくて、Omoplataという違うレーベルなんです。

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* このいろんなレーベルはなんなんですか。

H:Omoplataっていうのは、これを僕らはパスポートって行ってるんですけど・・・、あとちょっとで世界に行ける実力の人達に、Omoplataで本を作ってそれを片手に世界に出ていってもらおうという。もう一つはSUPER DELUXE、えーと、この辺がそれなんですけど・・・・これが金村さん、でこれが鷹野さん、こっちが鈴木理策さん。これは売れてる作家の本を2千円台でだそうと、でもインクジェットとかデジタルではなくて、ちゃんとオフセット印刷で。で、なにがスーパーデラックスかっていうと、作家がデラックスで、ちゃんと印刷しているからデラックスでさらに価格が廉価だからSUPER DELUXEなんですよ(笑)。

* なるほど、ふふふ。

H: もともとSUPER DELUXEは学生の子にも買える写真集を作ろうっていうところからスタートしています。いくら出来の良い写真集でも学生は買えなかったりするじゃないですか。お小遣いが限られているから。だからスターバックス4杯分くらいで買えるものつくれば、写真集のファンの裾野を広げられるっていうことでやってるんですよ。これは全く儲からないけど、ちゃんと業界にも貢献できるようにと。

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* なんかまじめな出版社の発想にはない遊び心があっていいですよね。

H: ちなみにOmoplataって言うのはブラジリアン柔術の技の名前です。ちょっと肩固め的な。業界に技を決めてやろう的な。

* ほ~、おもしろ~い。や、なんかね。たぶんこれから写真業界も変わっていくと思うんですよ。で、やっぱりそういう変わり目っていうのは他の業界、アウトサイダーがやらないと物事って変わらないので、ホウキさんもそういう方なんだな、と、今つくづく感じているんですけど。

H: 気がついたらスーパーラボは5年目に突入しました。今後どこまでやるかわからないですけど。ただ僕らは好んで大きくなろうとしてないので・・・好きなものを作って、それが継続できればいいと思ってるから

* 大きくなったら倉庫が大変ですよね。

H: めんどくさくなるだけなんで、いろんなことが。で、今までの経験上、忙しくなると今度時間がなくなるじゃないですか。お金が入っても。それって果たして今望んでいることなのか。幸せ感は、人それぞれだと思いますが、僕は時間も欲しいんで・・・。そういう人は、稼ぎはほどほどでなきゃいけないってのはよ~くわかってる。

* いや、いいですね。。あのホワイトルームをやられたのが写真に転身してくるきっかけだったんですか。

H: そうです。でもあれね、2年くらいの間、世界中を飛び歩いて勉強してきたんですよ。

* やる前にですか。

H: そう、やる前に。5番街のギャラーからチェルシーのギャラリー、ベルリンのギャラリーとか行って、時には倉庫見せてもらったりとか・・・色々なつてをたどってね。

* なるほど、ようするにギャラリーをやるって事はどういう事かのノウハウを学ぶために世界をまわったわけですね。

H: はい、客観的に見たりとか、実務的なことをちょっと盗ませてもらったりとか。

* そうですね、チェルシーなんかサイズが大きいんでどうやってストックするのかとか切実な問題であろうな、ってぼくも思います。

H: でそうやって開廊したんでね、なくなった時はかなり悲しかったんですけどね。でも今となっては良かったかな、と。

* そうですね、あれだけのものを維持して運営していくってのは大変ですよね。

H: それでたぶん広がりもここまでなかったと思うんですね。出版社はどこのギャラリーへも出入りできますし、どこの作家とも仲良くなれる。ギャラリーとして行っちゃうと、作家と話していると、あいつ、うちのギャラリーの作家を引き抜こうと思ってるんじゃないかと、そういう目で見られちゃうんで・・・どうしても。ズカズカいろんなところに行くのは行きずらいですよね。でも今はどこ行ってもウェルカムです。出版はギャラリーにとっても、作家にとってもいいんですごい楽です。みんな友達になっちゃうんで。

* ホワイトルームは何年くらい続いたんですか。

H: たったの1年です。

* 年代的には。

H: 6年くらい前ですね。

* 2007年か8年。

H: ちょうどパリフォトで日本がトピックになってるときで・・・僕らもパリフォトに出展させていただきました。

* あ、ホワイトルームでパリフォトに行かれてるんですか。

H: ですから今回パリフォト出るのもぼくにとっては5年かかってのリベンジなんですね。今回は出版ブースでの出展ですけど・・・。僕にとっては5年かかってもう一度同じ土俵に立てたっていう気持ちもあるんで・・・そうとう爆弾を投下してやろうと思っていろいろ準備しているんです。

* なるほどね~。それ、すっごく楽しみですね。

H: またね、アートのプロの人達との戦いも楽しみなんでね。こうやって見せたらいけるんじゃないかなって・・・自分なりにはあるんですけどね。

* あ、それね、ホウキさんと話していて面白いな、と思ったのはそういう戦いモードになってる人ってあんまりいないんですよ、写真業界で。アートバーゼルに行ってとかパリフォトに行ってとか、まだどうかな、どうかなっていうかんじが多いですよね。

H: 参加することに意義があるなんて全然思ってないんで、もう戦いですね、戦い。もうぼくはほんとに椅子取りゲームだと思ってるんで。この業界のなかで居場所をいただくためには実力でとらないとね。

* うん、面白い。たぶんそういう人がいままで写真界にいなかったと思うんですよ。みんなまじめにやってどうなのっていうかんじだったから。そこまで戦闘モードでね、よしバーゼル行くぞとかね、パリフォトで決めてくるみたいな人っていうのはたぶんいない。もしかしたら今までそういう人がいたら業界でたたかれちゃってたかも。

H: アウトサイダーの強みでね。でも皆さんとも仲良くさせていただいてますよ。普段は別に戦闘モードではないので、せんぜん(笑)

* 僕はホウキさんの風体を見たときに、あ、この人なんか違うなっていうその辺がアウトサイダーまるだしなんでそこもすごくアドバンテージがあるなって思ったんですよ。

H: 僕は会社勤めの経験が無いので。昔はバーやってたんこともあるんですよ(笑)。ほとんど看板ださないで。

* へぇ~、それ何年前ですか。

H: えーと、28年前ですかね。

* なんていう名前のバーなんですか。

H: ええ、VASE(ヴァーズ)っていう。

* どこら辺でおやりになってたんですか。

H: 代官山の八幡通り沿いです。でね、そのあとも中目黒、代官山周辺で常に数店鋪やっていました。ちょうどカフェバーブームってのが世の中で起きはじめの時、代官山の並木橋辺りがその震源地だったんでね。ウームとクロニクスというお店があって。そのあとちょっとして霞町にレッドシューズとかオープンした頃だったから、その時ですね。

* 隠れバーですね。

H: 地下でやっててね、TV番組の撮影にも使われたり、本当に色々な人たちが来店されていました。

* セレクトショップみたいなお店もやられていたそうですね。

H: デザイン系のね。代官山でチョコレートショップ(ジュネーブのステットラー)、中目黒でスウェーデン家具のショールーム(ストックホルムのアスプルンド)もある。僕の中では全部時代のビジネスってくくりでした。

* アメリカに住んでいた事もあるそうですね。

H: ええ、79年から83年までカリフォルニア州のサンディエゴに住んでいました。

* 何をされてたんですか。

H: ひたすら遊んでいました(笑)、まあ、本当はテニスのために渡米したんですけどね。全然勝てなくて・・・(笑)。で、まあ週末には毎週のようにL.A.に遊びに行ってたわけです。クルマで2時間で行けちゃうので。その頃、メルローズアヴェニューとかウエストハリウッド周辺が丁度良くなりはじめた頃でした。
 僕らの世代はマガジンハウスのポパイの創刊号から見ている・・・正確にはその前に出たメイドインU.S.A、あれにめちゃくちゃ影響を受けた口です。あのメイドインU.S.A.がなかったら僕はアメリカに行ってなかったかもしれない。だからいまだに石川次郎さんは僕にとっては神様みたいな人。その後に創刊されたガリバー、次郎さんがやってた、ものすごいお金をかけてたやつ。あれもすごかった。

* え~、かっこよかったですね。僕も好きでした。マガジンハウスが一番いい時代でしたね。僕も石川次郎さんとロケに行きましたよ。

H: 次郎さんには新しい事をする時はいまだにご報告に伺わせてもらっています。たま~に街でバッタリ会う時もあるんですけどね。

* 写真っていうくくりじゃなくてファッションからインテリアからかっこいいものが好きっていう、そういうところで感性もずぅーときてらっしゃるから面白く考えられるんですね。

H: 今は表現の形態が写真集になったので、いままでの蓄積したいろんな雑学とかアイディアがね、ここに突っ込めればいいな、と思っています。

* これまでファッションが好きだった人やインテリアが好きだった人が写真やアートも含めていっしょくたに考えられるような時代にきているから、全然写真のこと知らなくても写真集を手に取れるっていう時代ですよね。そうするとすごい広がりがあるのかなっていうかんじがますますしてきますね。

H: まじめに一生懸命本を作ることはとても素敵なんですけど、でもなんかないとね、らしさが。僕は海外だとスウェーデンのジャーナルっていう出版社が好きで、そこは年に5-6冊くらい出版しているスモールプレスです。ご夫婦でやってるんですよ。ご主人が60歳前後、いつも会うとお互い、今度は何作ったのっていって見せっこするんですけど、そこのはなんか味があるんですよね、そこらしさがある。やっぱりモノ作りって最終的にそういう人間性って出てきますよね、どうしても。ものにね、反映される。

* そうですね。今ホウキさんのお話を聞いているとバーゼルをめざしていらっしゃるということで出版の領域を超えている発想に面白さがあるのかな、って思ったんですよね。

H: でもなるべくコンパクトでいたい。

* 高額商品も出てくると思うんですよね。2000円もあれば何百万っていう商品もでてきたりして、そうなるとセカンダリーではどうなっちゃうんだって思います。

H: 究極は欲しいって思わせるものが作れるかどうかです。2000円でも買ってくれないものもあるだろうし。

* 2000円でも高いと思っちゃうものってありますね。

H: そうそう。そうなんですよ。安くすればいいってものでもないし。2000円なら2000円なりのハードルがあると思うし。

* そうですね。だからたぶん今出版やってられる方ですごく悩んでいらっしゃるのは値付けだと思うんですよ。印刷も安いところでっていうんで台湾で印刷するとかそういうことを求めがちなんだけど。だけど、そこらへんってものづくりへの思い入れと値付けのバランスが問題ですね。ホウキさんのお話しを聞いていてすごく思ったのはものづくりへのこだわりと値付けのうまさのバランスだと思いました。

H: やっぱりね、2000円のものを500部つくったって儲かるわけないんですよ。でもやるってことがちょっと面白かったり・・・最初からこのラインはビジネスだと思ってないんで、でもそういう低価格のものもまじめにやってるっていうのがいいかなってね。
 こういうものが得てしてセカンダリーになった時に価値が出たりするものなんです。

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森山大道『劇場』プリント付スペシャルエディション。箱に入れたときにぴたっと収まるようになっているとか、中でがたつかないようにスペーサーがついているとかディテイルにものすごく気を配っている。
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ホウキさんのコレクションから。焼けが気になるので2冊購入して一冊は未開封になっていたりする。
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エド・テンプルトンの写真集。十代のスモーカーのポートレート集。
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いろいろなお宝がここには納められている。

(2013年7月 鎌倉にて)

スーパーラボ ウェブサイト