写真集Honeymoon 菅野恒平

Honeymoon by Kohey Kanno

今月は、セッションプレスの記念すべき第一号、Honeymoon (写真1)を制作した、ニューヨーク在住の写真家、菅野恒平氏から作品についてお話を伺いたいと思います。
インタビューの前に、簡単に菅野氏の経歴をご紹介しましょう 。
菅野氏は、2004年に日本大学芸術学部写真学科を卒業、2004年から2006年まで株式会社資生堂にて、アシスタント・フォトグラファーを経験。2008年より、ニューヨークに移転しPourton de Moiや、パトリシア・フィールドなど著名ファッションデザイナーのもと広告写真を制作し、活躍の場を広げるとともに、3・11東日本大震災のチャリティーオークションへの作品の展示(2011)など、積極的に展示活動も行っています。

また、自費出版の写真集も多く制作しています。“The boy with the thorn in his side ” (2010) “tabinotameni” (2008),  “rope way vol.00″ (2003) “rope way vol.01 (2004).

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写真1

1  Honeymoonの完成おめでとうございます。この、作品の完成までの経緯
をお話しください。

この作品は2006年頃、アシスタントの仕事でサイパンに行ったときに、仕事の合間に撮影した風景です。僕が行った頃にはもう結構、観光産業も衰退していたみたいで、ゴーストタウンのようにも見える町並みでした (写真2)。写真をまとめる時に、移動の車窓から撮った写真だけで編集してみたら、怪しげな物語が出来そうな予感があったので、友人の門戸氏に文章を、陽平にドローイングを頼みました (写真3)。ストーリーは始めに少しだけミーティングをして、抽象的な物語、もしくは散文、詩のようにしたいという話をして、あとは彼に任せしました。ドローイングに関しても、簡単なイメージを伝えただけです。もともとは文章のついている5つのイメージで構成されていて、どの順番でも読めるという体裁のものだったのですが、本にするにあたり他の写真を足して、一冊にまとめました。

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写真2
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写真3

2 Honeymoonは、完全手作りの作品です。背表紙の部分を色のついた布のテープで留めるなど、制作にかなり工夫をされています。オフセットでの制作は考えたことはありませんでしたか?

あまり面白い話ではありあせんが、コストに関する理由でインクジェットプリントを選択しました。ただ、最近のインクジェットはかなり性能がいいので、出来上がりには満足しています。オフセットは単価は安いですが、数量のミニマムに限度があるので、在庫を抱えるリスクがあります。流通と代金の回収のルートが自分で確保できている場合はいいですが、そうでない場合、インクジェットは完全オンデマンド生産できるので、在庫を抱えるリスクが低いです。昨今は出版不況により、写真集を出版するチャンスがなかなかありません。ジン/自費出版ブームはそういう背景が大きいと思うのですが、個人で制作からセールスまでしなくてはならない場合、在庫管理は大きな問題です。


3 いままでThe boy with the thorn in his side, ROPEWAY vol,00/01 ,tabinotameni などいくつかのセルフパブリッシュを制作されていますが、 本作のハネムーンは、友人の門戸氏に詩の制作を依頼している点など、他の作品に比べ思い入れが強いように見受けられます。また、 他の作品集とは違い、人物の写真が一点も含まれていません。そこは、意識的に制作されたのでしょうか?

ropewayというzine(ジン)の2つ目を制作したときにも、別の友人の写真に門戸氏の詩をつけました。写真に文章がつくことで、その風景に突然、物語が生まれるという効果にとても興味があります。写された1枚の写真からは、その撮影時間の前後と、フレームの外側の風景というのは絶対に分かりません。実は、その写真が撮られた一瞬後に、すべての光景が変わったかもしれないし、フレームぎりぎりの外側に、沢山の人がいるかもしれません。逆に言えば、文章によって、見る人の思考を誘導して、抽象的過ぎるイメージに方向性を持たせることができます。うまくやらないと、とても安っぽい効果になってしまいますが。
質問の通り本作には人物の写真が一点も含まれていません。この詩は、殺した妻を車に乗せてドライブする、ちょっと怖い話ですが、人が誰も登場しない事で、殺人鬼の息づかいを同じ車の中で聞いているような感覚になればと思いました。(写真4)

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写真4

4 菅野さんにとり、写真集を創ることは、作家として、どのような意味をもっているのでしょうか?

僕の場合は、撮影の段階で明確なプロジェクトを持っている場合はあまり多くありません。本を作るという事は、編集をする、という事ですが、そこで初めてコンセプトが生まれる場合が多いです。ジャーナリスティックなフォトグラファーやファイン・アーティストたちが、制作の前にコンセプトを作ることに真剣に取り組むのと同じ作業を編集の段階でやっている、と考えています。オリジナルプリントやエキシビジョンをメインにしている写真家も、たくさんいますが、僕の制作スタイルからいえば、写真集を最終プロセスにする方法が自分に合っているように感じます。


5 菅野さんの作品は、まるで水彩画のような淡い色調が特徴的ですが、菅野さんの美を愛でる感性に直結しているように思います。その点はどのように思いますか?菅野さんのスタイルを形成した、また影響を与えた作家などいましたら、どうかお話しください。

僕は、90年代の写真家ブームを東京で過ごし、高校生くらいの子がHIROMIXを真似て友達をパチパチと撮り始めた、まさにその一人でした。その時代に、ホンマタカシ、ヴォルフガング・ティルマンスの写真に出会いました。僕の感覚ですが、彼らの写真は、色使いや構図や、被写体など、似た部分が沢山あります。ところが、彼らの出発点や、向き合い方というのは全然違うところから始まっています。僕が言いたいのは(彼らを評論するなんていう、恐れ多いことじゃなくて。笑)、僕の視点というのが、もの凄く表面的な部分を見ているということです。テクスチャアというか。例えば、写真をみて、まず、そのバックグラウンドを考えるような人だったら、彼らの写真は同じには見えないと思うからです。表面的にしか見ていない、というのはかなり語弊のある言い方ですが、言い換えれば、イメージから伝わる雰囲気や印象といった、感情的な方に注視していたということです。こういう感覚は、日本人からすれば、あまり珍しくはなかったのですが、今、アメリカに住んでいて、凄く独特の発想なのだと思うようになりました。たぶん、写真の教育方法の違いなのでしょうけど。

6 菅野さんのは、ニューヨークに活動の拠点を移されました。今後も、 ニューヨークをベースに活動を続けていく予定ですか? ニューヨークで、制作していく上で苦心されている点また、楽しんでいる点などありましたら教えてください。

今後のことは分かりませんが、今はここで制作活動をすることがとてもエキサイティングです。やっぱり、多様性という点においては、日本と比べ物になりません。それから、日本独特の感性を客観的に見ることができるのも、興味深いです。新しく違う言語を習得するというのは、大きな壁でフラストレーションになることもあります。プレゼンテーションが大きな意味を持つ場合が多いですから、もっとがんばらなくてはいけないのですが。。。

7 日本で多くの若い写真家に一言アドバイスを、よろしくおねがいします。

他人にアドバイスできる立場にありませんが、どれだけ集中力をもって、ひとつの事柄に向き合うかが一番の要であり、今の課題でもあります。決して、クリアなものを一つ提示するべきだとは思いませんが、見る人に自分の印象を与えられないと、沢山の他の写真の中に埋もれてしまうのだと思います。

今後の菅野さんのさらなる活躍がとても楽しみです。菅野さんの作品は、セッションプレスのサイト(www.sessionpress.com)で購入で出来ます。
”Honeymoon”
菅野恒平
100部限定,サイン入り,
12x9インチ、32ページ、インクジェット・プリント
価格:32ドル
郵送費:19ドル
配送:郵便局からの郵送/2週間程
質問:info@sessionpress.com