ミッチ・エプスティン インタビュー

確信が無いことにも果敢に挑戦し、挑戦し続ける作家

Mitch Epstein Interview

青年の様にスマートで、洋服の着こなしもシンプルで洒脱なミッチ・エプスティンさんは、60歳を超えた年齢よりもはるかに若々しく見え、知的で都会的な印象を受けます (写真: 1)。ウィリアム・エグルストンや、スティーブン・ショアとは少し後の世代ですがニュー・カラー・ムーブメントの作家の一人として70年代後半からデビューしました。また、ジョエル・スタンフェルドと並び優れたソーシャル・ドキュメンタリー作品(写真: 2~4)を発表しているミッチ・エプスティンさんを、新作写真集『ニューヨーク・アーバー(ニューヨークの東屋)』が今年5月に発表されたことを期にインタビューしました。

実は、私が初めてエプスティンさんにお会いしたのは、写真家ジョン・ゴセージさんの好意により招かれた、2008年のホイットニー美術館で開催されたウィリアム・エグルストンの展示会のスペシャル・レセプション・パーティーの席でした。デニス・ホッパーや、リー・フリーランダー, ピーター・ガラシ(ニューヨーク近代美術館元写真部門主任キューレター)等多くのアメリカ写真業界の立役者が集まり華やかなレセプションでした。 そして、主役のエグルストンの周りには我先にと、プレスのシャッターに収まろうとする参席者も多く、中学校の同窓会さながらの騒々しい盛り上がりを呈していました。その一方で、エプスティンさんは、キューレーターの人たちと端の方で控えめに佇まい、静かに微笑んで談笑していたことを思い出します。ダシュウッド・ブックスで、自己主張の強い作家(これは、もちろん、作家としてとても大切な要素だと思うのですが)に日々接し、当惑することも多い私は、控えめなエプスティンさんの態度に好感を抱きました。

さて、エプスティンさんの新作、『ニューヨーク・アーバー(ニューヨークの東屋)』(ステイドル社2013年)は、2年間にわたり、ニューヨークの5つの地区に生息する木々を主題に、都市生活の中の自然のあり方について検証した作品です。(写真: 5~8)全ての作品はモノクロ・フィルムで制作され、 白と、グレーと、黒の、色の基調が繊細に写し出されているため、背景となっている都市の喧噪から離れて、木々の静謐な存在感を際立たせています。手法はストレート・フォトグラフィーなのですが、現実離れをしたタイムレスな印象を受けるとても美しい作品です。

前作までの作品を通して、エプスティンさんは、政治的、社会的要素の強い作品をカラー・フィルムで発表し、 国内外で高い評価を受け多くの輝かしい受賞を誇っています。(Prix Pictet, Switzerlands, 2011: Gold Medal Deutscher Fotobuchpreis, Germany, 2009) 。例えば、アメリカのエネルギー資源のあり方を問う作品(『アメリカン・パワー』(ステイドル、2009年)や、世界大戦後のドイツの傷跡を検証する『ベルリン』(ステイドル、2011年)は、エプスティンさんの写真家としての地位をさらに確立した代表作といえるでしょう。(写真: 9~13)

今回、 ローカルな主題に転換し、モノクロ・フィルムで作品を制作した経緯はどのようなものだったのでしょうか? エプスティンさんの作家としてのありかたを探りながら、その点を中心にインタビューを進めることにしました。


—新作の『ニューヨーク・アーバー(ニューヨークの東屋)』の制作に至った経緯を教えて下さい。

実は、5年間にわたり全米中を訪れて制作した『アメリカン・パワー』のプロジェクトを進行している最中に、ニューヨークに生息する木々の写真を撮りたいというアイディアを得ました。コンセプトが先で制作にかかるという、断続的な作業ではなくて、私は、常に作品を作りながら継続的に次の主題を決定するようにしています。

—エプスティンさんというと、『アメリカン・パワー』等、社会派の作品を多く制作されてきました。主題をまったく変えてしまったことに、周囲の反応は如何でしたか?

ある、コレクターに、「『ニューヨーク・アーバー』は、君の最高傑作じゃないよね」といった批判的な意見を受けました。彼は、作品を実際に見てくれる前に、先入観だけでそのような意見を述べ、 私の作品を一つのカテゴリーに当てはめようとして、短絡的に判断を下したのです。本当に作品を見て、意見を言ってくれる人は、少ないですね。先入観は、人を盲目にし、そこにある作品を見極める最大の妨げだと思います。

確かに、『アメリカン・パワー』で、アメリカ・エネルギー資源のあり方について社会的な問題提起をしましたが、私は政治家ではないし、科学者でもありません。私は写真家で、自分が信じている主題に責任を持ち、自分が疑問を感じていることや、関心を持っていることについて作品を通して発表し、人々の意識の覚醒を目指しています。 また、確かに、『アメリカン・パワー』を通してヨーロッパで多くの受賞を授かりましたが、それは私にとって過去の話で、過去の栄光や名誉にしがみつくようなことはしたくありません。作家として、ステータスに安住したいと望んでいませんし、ステータスを得る為に作品を制作していないからです。

また、私は、常にオープン・マインドで、直感を大切にしています。そして意識的な形式主義に陥るのは、作家としての致命傷だと考えています。リスクを冒しても、未知の主題に挑戦していきたいし、作家として進化していきたいと思っています。

—アーティストに限らず、一般的に、ある年齢をむかえると、新しいことに挑戦をし、またリスクを冒してまでも、不確実な未来へ一歩踏み出すことをしなくなるものですが、 エプスティンさんは躊躇わなかったのですね。 また、30年以上もカラー・フィルムで作品を制作していたのにも拘らず、 今回は、8x10のモノクロのフィルムを使って制作した木々を撮影していますね。新しい技術を学ぶことは如何でしたか?

私は、新しい技法や、マテリアルを使って作品を制作することをハンディー・キャップだと思っていません。ただ、単純に学ぶべきもうひとつの技法として、慣れて、自分自身の手段として高めていくだけです。さっき話したことと繋がりますが、私にとって、それはリスクでもなんでもないのです。そして、私は、間違いをおかすことも恐れていません。多くの間違いを経験してこそ、学ぶべきことがあるのです。また、違う言い方をすれば、間違いをし、リスクを冒さないと、自分自身の作品を成就することはできないと思います。

—エプスティンさんのそのような作家としての礎を築くのに影響を与えてくれた人を教えて下さい。

クーパー・ユニオン大学で教えを受けた、ゲイリー・ウィノグランド先生とMoMA写真部門ディレクターの、ジョン・シャーカフスキーさんです。ウィノグランド先生は、反権威主義な人で、写真と言う媒体を通して、何を作れるかを徹底的に突き詰めた妥協をすることを知らない、不屈の精神の素晴らしい作家でした。もちろん在学中は、彼から厳しく批判されながら教えを受けました。彼の作家としての態度は、私の中でいまも強く残っていて、ふとした時に彼の存在を思い出し、父親を乗り越えようとする息子のような気持ちになることがあります。

シャーカフスキーさんを通じて、私は、20代のときに MoMA写真部で多くの過去の傑作作品を実際に見せもらい、研究させて頂いたことがあります。本当に気さくな方で、親切にいろいろ写真についてお話を窺わせて頂き、その時の経験をとても貴重なことであったと感謝しています。

—最後に、日本の若い作家の方へむけて、成功する秘訣を教えて下さい。また、作家として、人としてどのような交友関係を結んでいるかも教えて下さい。

成功する為にはまず、相当な努力と忍耐が必要です。若いうちから、成功したいと躍起になるのはどうかと思います。今の若い人は、ずいぶん早くに展示会をしたりすることに奔走し、それが有名になる道だと信じているようですが、私はあまり感心しません。本当に多大な努力と長い歳月をかけて、作品の評価はなされるべきで、成功などは結果として後についてくるものです。充実した作家生活を送ることは、とても険しい道のりを意味していると思います。

私は、人とコミュニケーションを計るとき、よい聞き手であることを心がけています。また、感謝の気持ちを忘れないことも大切だと思います。世界中に親しくしている友人がいますが、特に、ベルリンには、 損得なしにビジネスを超えて、自由な気持ちで意見をかわし合える多くの親しい友がいます。誠意を持って接し、自分の知っていることを惜しみなく教えあい助け合うことは、とても大切なことだと思っています。


アメリカには、no pain no gainという言い回しがあります。 努力なしでは何も得られないという意味です。エプスティンさんの場合は、no risk no future success as an artist 確信の無いことに挑戦してこそ、作家としての将来が確立するということでしょうか。

エプスティンさんは8月10日から開催される あいちトリエンナーレ2013に、『アメリカン・パワー』の作品を展示します。9月23日(月曜日)には同会場で催されるレクチャーにも参加します。エプスティンさんの作品を見ることのできる貴重な機会をお見逃しなく。


今回のインタジューに際して、エプスティンさんのアシスタントのライアン・スペンサー (Ryan Spencer)氏より、多大な協力を得ました。この場をかりて、厚く御礼申し上げます。

(写真はクリックすると拡大表示されます。)

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写真1©Lisa Elmaleh

2.Cocoa Beach I, Florida 1983 .tif
写真2©Mitch Epstein, Cocoa Beach I, Florida 1983, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

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写真3©Mitch Epstein, Madison Avenue, New York City 1973, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

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写真4©Mitch Epstein, Vietnam Veteran’s Parade, New York City 1973, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

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写真5©Mitch Epstein, American Elm, Central Park, New York 2011, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

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写真6©Mitch Epstein, Eastern Cottonwood, Sprague Avenue, Staten Island II 2011,Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

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写真7©Mitch Epstein, English Elm, Washington Square Park, New York 2012, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

8.Weeping Beech, Brooklyn Botanic Garden 2011.tif
写真8©Mitch Epstein, Weeping Beech, Brooklyn Botanic Garden 2011, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

9.Amos Coal Power Plant, Raymond City, West Virginia 2004.tif
写真9©Mitch Epstein, Amos Coal Power Plant, Raymond City, West Virginia 2004, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

10.BP Carson Refinery, California 2007.tif
写真10©Mitch Epstein, BP Carson Refinery, California 2007, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

11.Century Wind Project, Blairsburg, Iowa 2008.tif
写真11©Mitch Epstein, Century Wind Project, Blairsburg, Iowa 2008, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

12.Gavin Coal Power Plant, Cheshire, Ohio 2003.tif
写真12©Mitch Epstein, Gavin Coal Power Plant, Cheshire, Ohio 2003, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

13.Hoover Dam and Lake Mead, Nevada/Arizona 2007 .tif
写真13©Mitch Epstein, Hoover Dam and Lake Mead, Nevada/Arizona 2007, Courtesy of Galerie Thomas Zander, Cologne

Mitch Epsteinに関してのサイト集:
http://www.mitchepstein.net
http://sikkemajenkinsco.com/index.php?v=artist&artist=4eecdfececa63
http://aichitriennale.jp/
http://www.facebook.com/AICHITRIENNALE
http://www.steidl.de/flycms/en/Artists/Mitch-Epstein/0007192136.html