ジム・ゴールドバーグ・インタビュー

「リッチ・アンド・プワー」(steidl, 2014)

Jim Goldberg Interview

ダシュウッド・ブックスで今年一番、話題をさらったサイン会 は、6月に開催されたジム・ゴールドバーグ(Jim Goldberg, 1953) の 「リッチ・アンド・プワー」でした。旧友のナン・ゴールデンや、コリアー・ショワー、タリン・サイモン、エレン ・ヴォン ・アンワース等、多くの有名作家、 ゴールドバーグの作品の信奉者である多くの若い写真家達が会場に集まりとても華やかなサイン会となりました。

ジム・ゴールドバーグは1984年、若干31歳の若さで、ニューヨークの近代美術館で開催された”Three Americans” 展 に、ロバート・アダムス、ジョエル・スタンフェルドと共に作品を発表し、新世代の作家として華々しいデビューを飾りました。また、マグマム・フォト に2006年より所属し、 The New York Times Magazines, The New Yorker, Dazed and Confused等で作品を発表する傍ら、 ニューヨークのペース・マクギル・ギャラリーと、サンフランシスコのステファン・ワーツ・ギャラリーの所属アーティストとして、国内外のアート・フェアへの出展、個展の開催を活発に行っています。

今年度、アパチャー・パリス・フォトのベスト・フォト・ブックスのショート・リストにも入賞した「リッチ・アンド・プワー」(steidl, 2014)は、実は、1985年にランダム・ハウスから発売された改訂版となります。 サンフランシスコの富裕層と貧民層のポートレイトは、70年代後半から8年間の長い年月に渡り撮影され、被写体がテキストを綴った本書は、新しい報道写真のスタイルを確立したとし、出版当初大きな反響を呼びました。

通常、改訂版は初版のコピーとして、印刷技術が劣り質が落ちることがよくあります。ゴールドバーグの「リッチ アンド プワー」は、写真出版社の名門であるシュタイデル社が手掛けました。その為、初版をうわまる印刷の質の高さで、また初版で発表をされていない作品を挿入した為、新装改訂版として、The Guardianや, PDN 等、写真の専門メディアで取り上げられ話題をさらっています。発売当初85ドルでしたが、サイン本が、240ドル以上の高値がつきコレクターの間で、取引が交わされています。また、既に 弊社には在庫が無いのですが、未だに多くのお問い合わせを頂き、改めてゴールドバーグの作品の人気のほどを伺えます。

今回は、ジム・ゴールドバーグの新作「リッチ・アンド・プワー」の再制作に至る経緯はもちろん、キャリアの初期に受けた影響や、写真集を制作する際の出版者との関係、活発な活動を行う秘訣や、日本の若い作家へのアドバイスをお話し頂きました。

須々田(以下、S:30年以上にも渡り、社会的、政治的なテーマの報道写真を制作されていますが、自身のスタイルをどのように確立したのか、また、作家として、活動を始めた頃に影響を受けた写真家についてお話し下さい。

ジム・ゴールドバーグ(以下、G):自分は、報道写真家と言うより、フォト・ダイアリスト (photo-diarist) だと思っています。写真家として活動を始めた当初から、自分の人生におこる内的(自身の心情的)なことや、外的(自分の外のこと)なことを常に注意深く観察するようにしています。ロバート・フランクは、私の作家活動に多大な影響を与えた作家ですが、フランクも、自身の内的な事にまず目を向けて、外的な事にそれがどう映るかを追求した作家だと思います。私の初期の作品を集めた「Candy」が日本の出版社、SUPER LABOから、近々発表されます。私のスタイルの原点がよく表されている写真集となりましたので、機会がありましたら是非見て下さい。

S:30年前に制作された写真集を、なぜ今回、改訂版として制作し直そうと考えたのでしょうか?

G:実は、 SUPER LABOの新作出版「Candy」の制作のため、「リッチ・アンド・ プワー」のコンタクト・シートを改めて見る機会がありました。 もしかしたら、文字が全く入っていない写真を入れることで、 初版の写真集はもっと力強い写真集になったのではないかと思いを巡らすようになりました。そのため、シュタイデル社から、改訂版として発刊された本書には、未発表でテキストが挿入されていない作品が含まれています。

「リッチ・アンド・プワー」の主題を、改訂版を通して強く築くのに、この作業はとても重要な事だと思いました。

S:「リッチ・アンド・プワー」は、シュタイデル社から発刊される第2作目の写真集ですが、シュタイデル社とお仕事されていかがでしたか? 自身の作品を発表する場として、出版社との関係はどのようにお考えですか?

G:写真集の内容により、ワシントンDCのコンコラン・ギャラリーの主任キューレターである、フィリップ・ブルックマンにアドバイスを受けて制作することがありますが、基本的に、自分の写真集のデザインや編集を全て自分自身で手掛けています。同じ出版社と一緒に仕事をすることによって、確かに好都合な面は多くあります。それと、同時に、スカロ、ナズラエリ、スーパーラボ、アパチャーなど他の出版社からも、私はこれまで写真集を出版してきました。今後も、よい出版社と出会い、写真集を制作していこうと思っています。 ゲシュハルト(シュタイデル社の社長のファースト・ネーム)から制作について多くを学び、彼のチームと写真集を作る過程は私にとってとても貴重な経験となりました。また、今後も、他の出版社から多くのことを学ばさせて頂く機会があると思います。写真集は、個々の内容によってしかるべき制作の仕方があると思っています。その要求に合わせ、一番合う出版社と作品作りをすることが大切だと思います。

S:ゴールドバーグさんの写真は、作品中に、被写体から手書きコメントを合わせて制作している事から、踏襲的な報道写真の枠を飛び越え、写真家の視座と、主体となる人物の生の声、そして、作品をみる人との間に、新しいスタイルを提示しました。その、表現方法は、エド・テンプルトンや、クリス・ショウら、次世代の多くの写真家たちに多大な影響を与えています。自身の作品のスタイルを形成する上で、影響を受けた、写真や、映画や、小説などありますか? 80年代初頭に、このような方法で作品を見せた時の人々の反応はいかがでしたか?

G:私は文学や写真に映画などに影響を受けたと思います。シャーロット・ソロモンの、“Charlotte”, アンドレ・ブレトンの “Nadja” やロバート・フランクの ”Lines of My Hands” , ダニー・シーモアの、“A Loud Song”に強く影響を受けました。若い頃に映画をよく見たため、 ヴェルナー・ヘルツォーク、フェデリコ・フェリーニなどの作品からも影響を受けたと思います。

テキスト入りの写真を80年代初頭に、公の場で発表した時の人々の反応は、おそらく奇妙な物として捉えられたと思います。でも、テキストを加える事で、写真に深みを与える事が出来ると直感的に確信していたので、これでよかったと考えていました。

S:ゴールドバーグさんの代表作品といえば、1995年にスカロから出版された「Raised by Wolves」 ですね。この写真集は、カリフォルニアのホームレスの子供たちを撮影した作品で、ワシントンDCのコンコルコラン・ギャラリーでの展示会では、単に自身の作品を壁に展示するだけではなく、ビデオや、ファンド・フォト、オブジェなどを会場に配置し,伝統的な写真の展示方法を使わず、現代美術の作品のように展示会会場を創造されました。今でこそ、多くの写真家が、ミックス・メディアを使い写真の展示をしますが、95年の当初はおそらく革新的な事であったと思います。このような、展示方法を取り入れるようになった経緯を教えて下さい。

G: 長年の作家活動において、自分の作品世界を表現するのに、重層的な意味を与える展示方法が出来るようになってきたと思います。「Raised by Wolves」は、自分の世界観をあますことなく表現することができた、最初の写真集であると思っています。だんだん時間が経って自分自身も、理解してきたことなのですが、 モンタージュで、異なった種々の要素を並べて一つの作品にまとめることが、私の作品においてとても重要なことです。

S:マグナム・フォトの正規の会員であるだけでなく、California College of the Arts (CCA)で教鞭をとり、毎年開催される世界中のアート・フェアに参加し作品展示や、レクチャーをされています。作家活動だけでなく、商業写真(W, Details, Flaunt, The New York Times Magazine, Esquire, Rebel, GQ, The New Yorker, Dazed and Confused)も、多く手掛けています。そのバイタリティーはマグナムのメンバー内でも突出しているように見受けられます。その秘訣を教えて下さい。

G:もちろん、時々、仕事が多すぎて気が滅入ることもあり、やらなくてはいけないことで頭が一杯で、苦しくなります。だけど、さらにもっと自分の持っているものの全てを完全に出したいという欲求を満たしていくことの方に、心の底から興奮した気持ちになり、そして作家として生きていることに喜びを感じます。これは、もう性分だと思います。

S:先の質問と重複しますが、どのようにして、作家としての強い要求を常に満たし、エネルギッシュに制作されているでしょうか?

G:私は、いつもいろんなことに興味があり、そして、とても直感的なところがあります。その性格が、自分も制作活動に、インスピレーションを絶え間なく与えてくれていると考えています。そして、もっと作品を制作したいと望み、作品を作る中で、もっと、いろいろなことを知りたいと思います。文章を書き、物を考えるように、制作する中で、徐々に自分自身の世界観を作り上げているように思います。

そして、私の家族は、自分の作家として活動することへの支えであり、インスピレーションの源であると思っています。

S:最後に、日本の若い作家の方に、写真家として成功する秘訣を教えて下さい。

G:これは、答えの無い質問の一つで、当たり前のことを言ってしまいますが、自分自身に誠実であることが大事だと思います。自分に誠実であると言うことは、シンプルで言い古されていることですが、真実があると思っています。

(写真はクリックすると拡大表示されます。)

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JoAnn Roberts, 1980-81

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Regina and Edgar Goldstine, 1981

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Thanksgiving, 1977-80

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The Day Before Thanksgiving, 1981-84

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T.J., 1977-79

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High and Low, 1977/2013

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Birthday Party, 1983

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Katherine, 1982

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Cover, Rich and Poor, 2014

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Abobe: Broadway, San Francisco, 2013
Below: Mission Street, San Francisco, 2013

Rich and Poor by Jim Goldberg
Images available for reproduction.
All published images must be accompanied by the credit line ©Rich and Poor by Jim Goldberg by Steidl

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

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From the maquette for the book Candy, forthcoming, Super Labo; Courtesy of the artist and Pace/MacGill Gallery, New York

“Candy” by Jim Goldberg is coming soon by Super Labo