メラニー・マクワーター・インタビュー

フォト・アイ、マネージャー

Melanie McWhorter Interview

アメリカや、ヨーロッパの写真の業界に携わる人であれば誰もが、ファト・アイの名前を聞いたことがあると思います。今から30年以上前、1979年にリクソン・リード (Rixon Reed) 氏によって設立されたフォト・アイは現在、ニューメキシコ州のサンタフェにあり、全米一の規模を誇る書店と、ギャラリーを併設して持ち、写真集とオリジナル・プリントの販売をしています。またオンラインでの活動は、写真愛好家の為のフォーラムとも呼ぶべき充実した内容で、豊富な最新情報を日々提供しています。例えば、著名なキューレターや、ライター、写真家を招いて、新作写真集のレビューを毎週掲載し、オークションではコレクター・アイテムの古書の販売をし、さらに現役で活躍している作家のプリントを制作/販売をしています。そして、なにより多くの専門家からも一目をおかれているのは、年末に発表される、ベスト写真集を選出する企画です。個人的にはベストという言葉に違和感を覚えますが、コレクターにとって、このリストで掲載されている写真集を入手することは大変重要なことで、ダシュウッドのお客様からもこのリストをもとに、多くの注文やお問い合わせを頂いています。

私自身も自分でセッション・プレスという出版社を立ち上げ、日本人作家の写真集を制作し、また、ニューヨークのダシュウッド・ブックスで、マネージャーとして、日々写真集を紹介する仕事に就いているため、写真界の動向を理解する必要があります。フォト・アイから発信される情報は、とても分かりやすく、辞書を引くような感覚で常にチェックするようにしています。きっと、フォト・アイのサイトをご覧になったことのある方はお気づきだと思いますが日本の写真集もかなり多く紹介され、関心が高いことが伺われます。

今回は、フォト・アイのマネージャーとして10年以上勤務されているメラニー・マクワーターさんを迎え、フォトアイの活動、日本の作家について、そして、新作をどのように取り上げているかなどを、詳しく伺ってみました。この、インタビューの中で記載されているように、写真集を制作された際には、是非フォト・アイへご連絡を取られることをお勧めします。(もちろん、ダシュウッドにもコンタクトを下さいね。)



ー須々田:メラニーさん、こんにちは、今回は、日本の読者にメラニーさんのフォト・アイでのお仕事や、日本の写真について、ご意見を伺わせて頂きたいと思っています。まず初めに、ご自身のマネジャーとしてのお仕事についてお話し頂けますか?

ーメラニー:マネージャーとしての仕事を毎日とても楽しくやっているわ。10年以上マネージャーとして働いているけど、その前は、会計や、郵送物管理や、接客などのセクションで働いていたのよ。小さな会社に勤務すると、自分の役割が完全に分業されることがないのよ。だから、マネージャーの役職に現在はついているけど、今でも、いろいろ細かい業務をやるようにしているわ。写真集業界はこの数年でかなり変わってきたと実感することがあるわね。例えば、アマゾンが本の販売を始めて市場を支配し始めたり、毎年新たな出版社が設立されて多くの本が制作されたり、プリント・オン・デマンド形式の写真集や、オンラインで簡易に制作される写真集も多く出版されるようになったりね。また自費出版という形で出版される写真集も、とても多くなったわね。

マネージャーとしても主要な業務は、とにかく素晴らしい新作の写真集を見つけ出すことなの。フォト・アイのお客さんが以前にどんな本を購入したかを把握して、それにあった写真集を紹介することはもちろんするけど、新しく出版されたユニークで面白い写真集も、積極的に伝えていっているわ。

ー須々田:メラニーさんは、日本の写真や写真の本に関してどのようにお考えですか?

ーメラニー:日本の写真に関して思っていることは、沢山ありすぎるほどあるわね、、、どこからお話をしようかしら、、。私は、日本の写真家がいなければ、今の写真ブームはあり得なかったと思っているのよ。私たちのお客さんは皆、基本的な日本の写真の歴史をおさえているわ。例えば、森山大道だとか、荒木経惟の活動については、みんなよく分っているの。日本の若い写真家や新しい出版社の活動も大変興味深いと思うし、写真業界全体に多大な貢献を与えていると思うわ。
個人的に、日本の写真集が大好きなの。毎週のように、T&M プロジェクト, Tanto Tempo Gallery, 赤々舎、スーパー・ラボ, Akio Nagasawa, 写々舎、冬青舎、アマナなど、多くの日本の出版社から写真集を購入しているのよ。

ー須々田:メラニーさんは、日本の作家では誰が一番お好きですか?

ーメラニー:これは、かなり難しい質問ね、、アラキが取った花の作品とか、石内都のリップ・スティクの作品、川内倫子の睫毛の写真は本当にすてきね、、、北井一夫の作品や山本昌夫の静物作品も大好きだわ。上田義彦の深緑の森の作品も最高だと思うわ。

自宅に、多くの日本の写真のコレクションがあるのよ。上田義彦の 「Quinault」や、倫子の「 Illuminance」, 森山の「 Self-Portrait as Art History,」 藤井保の「ESUMI」、 渡邉博史の「Findings」, 渡部さとるの「da.gasita」とか、山本昌夫の本も何冊か持っているのよ。もっと、お金とスペースがあれば、日本の写真集を集められるのになって、いつも思っているわ。

ー須々田:マネジャーとしてのお仕事で、一番苦労されるところはどんな点ですか?

ーメラニー:そうね、会社全体の流れをいつもよく把握していることね。もともと、この役職はなかったところから始まったので、業務の流れや質によってどんどん変革されるべきだし、日々の仕事を柔軟にこなしていくことが大事だと思うわ。

私たちの会社が完璧だってことはぜんぜんないのよ。だけど、新作の素晴らしい写真集を知る為に、私は、常にBlog、ウェブサイトやソーシャル・メディアをチェックしているのよ。多くのメールが日々届いて、見本の本も世界中から送られてくるの。このお仕事について辛いと思うことは、送られて来た本に「ノー」っていうことと、(フォトアイで売れないと言うことを意味しています)、それから、破損した本を受け取る時ね。本当に、多くのメールが日々届くのでそれに対処するだけでも大変なの(私も、同じです!メラニーさん)

ー須々田:まだ、名の知られていない若手の作家から写真集を受け取ることはどう思われますか?

ーメラニー:それは、もちろんとても嬉しいわよ!サンタフェで開催されるポートフォリオ・レビューに参加して、多くの新人作家に会えるのを楽しみにしているのよ。フラクション・マガジン・ジャパンで特集されてる若い作家にもこのフェアに参加することで、出会えているの。私の日本語の知識はとても限られているので、「こんにちは」とか、「ありがとう」とかしか伝えられないことを残念に思っているわ。

昨年、長谷川美祈さんが製作された「The Path Of Million Pens」を、このサンタフェのポートフォリオ・レビューで拝見させてもらったの。この写真集は、長谷川さんの手作りで、装丁は布で出来ているのよね。彼女の意匠が、写真集の内容にまさに合っていて、日本で母親としてのあり方に関するいろいろな問題点や、そして喜びをよく表していると思ったわ。この本を通して、母と娘の関係や、長谷川さん自身のアイデンティティが検証されていて、興味深かったわ。

数年前に開催されたこのフェアの為に、山縣勉さんは、16x20インチの、シルバー・ジェラティン・プリントをわざわざ持って来てくれたのよ。山縣さんの「Thirteen Orphans」 は、東京の上野で麻雀をしている人達を撮影したプリントなの。プリントの下に、作中でモデルとなった人から、コメントが入れられているの。山縣さんがどれだけ多くの時間と労力を費やしてこの作品を仕上げたかが、とてもよくわかる素晴らしいプロジェクトだったと今でもはっきりと思い出せるわ。長谷川さんと山縣さんの作品を通して、私は、少しだけど日本の文化を知った気がしたの。

フォト・アイでは、新人の作家の写真も積極的に紹介しているのよ。もちろん、写真界の大御所の写真集が在庫の大半を占めるけど、自費出版の写真集だって、購入するのよ。コレクターでも、視野の広い人は、名が全くない新人の写真集でも買って下さることがあるの。こういうコレクターは、写真が本当に好きで、写真集を一つのアート作品として見ているから、作家の知名度よりも自分の感性を大切にするのね。
作家から送られてくる段ボールを開けるときは、クリスマスが来た気分になるわ。開けるときはいつだって、本当にどきどきするの。

ー須々田:フォト・アイに写真集を提出する決まったルールがありましたら教えて下さい。

ーメラニー:もちろん、サンプルとなる見本を送って頂けると、とても嬉しいわ。送り先は以下の通りよ。

photo-eye Bookstore + Project Space,
376A Garcia Street
Santa Fe, NM 87501
USA

もし、配送される料金を懸念されるなら、pdfをメールで送って下さいね。直に、送られて来た見本の本を検証し、メールでご返答することは出来ないけど、なるべく、1−2週間中には連絡出来ると思うわ。いろんな作風の作家から、写真集の提出を頂くけど、ひとつ、お伝えしたいことがあるの。こちらへ、写真集を送る前に、フォト・アイのサイトをみてほしいの。そして、自分の作品が、私たちのコレクションと合っているかどうか、自身で点検してみることをお勧めするわ。ニュース・レターに自分のメールアドレスを登録して、私たちの活動を理解してから、トライしてみるのも良いかもね。

ー須々田:フォト・アイのウェブサイトは、写真集のコレクターにとって、その豊富な情報が提示され、本当に素晴らしいと思います。サイトの充実度はやはり、ビジネス上大切だとお考えですか?年末に発表される、ベスト・フォト・ブックには、コレクターを初め、出版社、写真集の業界に携わる全ての人にとり、とても関心が高い企画ですが、どのような経緯で始まったのでしょうか?メラニーさんは、この企画を個人的にどうお考えですか?

ーメラニー:フォト・アイのサイトが素晴らしいと評価を受けているのは、多角度から写真集について紹介している点だと思うわ。例えば、
a book of the day (日々更新する本の掲載)
new arrivals (新作写真集のコーナー)
signed books (サイン本のコーナー)
bestsellers (もっとも売れ筋のよい写真集のコーナー)

といった、セクションを設けて、豊富な情報を提供しています。この作業は、創業者のレクソンさんが30年前から今まで、努力して来た結果なの。

コレクターによっては、電話でコンサルテーションをした後に、本を購入する人と、サイトだけの情報を頼りに本を買って下さる方がいるの。私たちのサイトが、オーダーをするときの重要な情報を供給していることを実感しているわ。

年間ベスト・ブックの選出は当初、フォト・アイのスタッフからの選出だけだったの。それから、フォト・アイ発行の雑誌で以前は、そのリストを発表していたのよ。2007年頃から25~30人程の業界の著名人にレビューをしてもらうようになったわ。選出する人は、毎年変えるようにしているわ。選ぶ人の個人的な好みがまさに、反映されていると思うわね。

ー須々田:デジタル・フォト・ブックと写真集に関して、どう思いますか?写真集の未来はあると思いますか?

私は、以前他の雑誌でお話させて頂いたことがあるんだけど、本は、匂いや、触感や、見ることを第一前提としていると思うの。手で感じて本のページをめくることや、紙の感触や、光沢のあり方とか、インクの匂い全てが写真集にとって欠かせない要素だと思うのよ。後世に残って行く本は、物としての価値が高いものね。作品として、どれだけ、写真集と言う枠組みの中で、その存在を際立たせているかが大切だと思うわ。

もちろん、新しい技術の登場の為に、写真集のあり方が変わって行くんだろうなということは理解はできるわ。その革新的な技術の為に、写真集の存在が、危うくもなるだろうし、もっと価値が上がることになるかもしれない、、、でも、私は、まだまだ、写真集は、the eーbookに取って変わられるとは思わないわ。

ー須々田:ご自身のお仕事を楽しんでいらっしゃいますか?なにが一番、幸福に思いますか?

ーメラニー:もちろん、私は今の仕事が大好きよ。この仕事を世の中でやっているのは、自分と、美和、私たち2人だけだって、いつもみんなに吹聴しているんだから。この仕事についている私たちは、とってもラッキーだと思わない?

私は、マネージャーとして、殆ど全てのことに決定権を持たせてもらっているの。写真集を愛する人たちと接して、色々なことを学ぶことも心から楽しいと感じるわ。自分の才能や、能力以上のものに接するためには、この大きなコミュニティーに身を置くことがとても大切だと思うわ。

ー須々田:フォト・アイの存在は業界中、かなり突出しています。なにが、その活動の要となっているのでしょうか?どのようなことをフォト・アイは会社として、目指されているのでしょうか?

ーメラニー:それは、まさに、持続力と柔軟性の為ね。オーナーのレクソンは30年前にテキサス州にある、オースティンという街からビジネスを始めたのよ。私は、フォト・アイが、サンタフェに移転した後のたった17年しかフォト・アイで働いていないけどね。フォト・アイは、経済や社会の流れの変化に敏感に呼応してビジネスのあり方をいつも模索し、適応することをしているの。オーナーは、本当に新しいアイデアを生み出すことの天才で、特に、オンライン・ビジネスのあり方には細心の注意を払っているわ。

また、フォト・アイはコレクターだけでなく、出版社、写真家たちとも親密で友好な関係を持つことに苦心しているの。人とのつながりを大切にすることが一番ね。私は、自分の仕事に自負を持っているけど、周りからの意見を大事にすることも、とても大切な事だと考えているの。本当に多くの人から支えられてフォト・アイはこれまでやってこれたと思っているわ。その感謝の気持ちは言葉に出来ないくらいよ。

ー須々田:フォト・アイは、特に世界中の著名な写真家ととてもつよい繋がりがありますね。どのようにして、そのようなコネクションを作り上げられたのですか?作家とやり取りの中で感じることを教えて下さい?

ーメラニー:フォト・アイの高い評判の為に、多くの作家の方から信頼を頂いていると思うわ。関係を築くだけでなくて、より深くなるように時間をかけて努力していくことも、もちろん大事ね。写真家の方々から、サイン本を売って頂いたり、本のレビューを書いて頂いたり、本当にお世話になっているわ。心から、彼らに感謝しています。

ー須々田:写真のどこが好きですか?

ーメラニー:小さい子供の頃から、ずっと写真が好きなの。写真の素晴らしいところは、心の奥底から生まれてくることね。現代美術とは違って、それが写真の魅力ではないかしら。私たちが世界であって、世界の中の私たちのアートって感じかしら?私は、写真を本当に心から愛しく思っているのよ。

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