小島康敬 インタビュー

静かな闘志、作家であることの決意

Yasutaka Kojima Interview

謙虚で、温厚、勤勉、精力的で迅速な行動力。小島さんを知っている人は、口を揃えてそう評価するだろう。2006年に渡米をし、今年の9月の下旬に、8年の米国滞在に幕を閉じた。その間、小島さんの活動は他に例を見ることない程、めざましかった。文化庁の奨学金を授かり、数々の写真コンペで受賞を受け (フォト・エスパニア、ICP)、個展、グループ展をニューヨークと東京で開催し (ISE cultural foundation, Place M, Nikon Salon, hpgrp Gallery, 25PCW, New York Photo Festival)、スーパー・ラボからは、待望の写真集を発刊した。更に、今年の春には東京の916ギャラリーで、自身が最も影響をうけたという森山大道氏の展示会の展覧会期中に隣接するスペースで、個展を開催することも出来た。

小島さんは日本で、PlaceMが主催する写真ワーク・ショップを半年間のみ受講していたが、 大学は文系で、卒業後は5年半、サラリーマンとして一般会社に勤務していた。写真は、大学在学中に海外へ放浪の旅に出た際に撮影していた程度で、本格的に写真を学んだのは、2006年に渡米後入学したICP(国際写真センター)での1年間のみである。つまり、アメリカで写真家のキャリアをスタートしたといってもいいだろう。

作家としてのスタートの遅さに、危惧はなかったのだろうか? 海外で生活することだけでも文化の違いで、精一杯になってしまうのにも拘らず、作家として邁進する姿勢の背後には、どのような決意があるのだろうか? また、情報過多の社会状況において、作家としての立ち位置や、作家同士の繋がり等はどのようにあるべきなのか? 人の人生には、それぞれのペースがあり、もちろん価値観も様々だ。小島さんの作家としての生き方は固有のことであるけれども、私たちにも学び取りたい要素があるかもしれない。そんな、期待を抱きインタビューを行いました。

—開口一番、核心的なことをお伺い致しますが、小島さんの作家としての活発な行動力は、一体何が源となっているのでしょうか?

実は、中学と高校の時に2人親友を亡くしました。この、10代の時の体験は私にとり、とてもショックな出来事でした。まさに、人生の短さ、儚さを痛切に体感したのです。その時の経験が原動力であるとははっきり言えませんが、意識のどこかで常に、「人生は短い。自分の思った通りのことをしていきたい」と切望するようになったのかもしれません。大学卒業後、外国車を売る会社に就職したのですが、この職業を一生続へていくことは出来ないと、入社後2週間で自覚しました。2年半勤めた後、また、違う会社で3年間程働きました。その会社に入社した理由は、ニューヨークで写真を学ぶ為の資金を貯めるためでした。

—その、サラリーマン時代に学んだことはありますか?

最初の、外国車を売る仕事についている時に、トップ・セールスマンの方の考え方はいまでもよく覚えています。それは、世で一流のお仕事をされている方に通じる考え方でもあると思うのですが、「量の無い質はありえない」ということでした。単純に聞こえてしまうと思いますが、とても良いことを学んだと思っています。また、次に働いた会社の社長は常に、「世の中には出来ないことはない。必ず、答えがあるはずだ」ということを信条に勢いに任せて、行動するタイプで、そのポジティブなものの考え方に今でもつよく共感しています。

—海外で、初めて本格的に写真を学び、作家として展示や出版活動をされていますが、その集中力は、並大抵の精神力ではないと思います。海外で生活することだけでもふつうは、精一杯であるのに、小島さんはなにか、悩んだり立ち止まったりされたことはありましたか?

実は、渡米後2年後に、かなり深刻なパニック障害を患ってしまいました。とにかくいつも不安に苛まれ、人と会うのが特に怖く、人と向き合ったとたんに、心拍数が異常に上がり、呼吸困難に陥ってしまうが多々あり、一人で電車に乗ることさえ恐ろしく思うことがありました。 私は、日本で学生時代、ラグビーの名門の国学院久我山校の部員として、チーム・ワークの大切さを学んでいました。また、サラリーマンとして会社に勤務していた時も、コミュニケーション能力を高めることを常に意識し実践していたので、人と接することが辛くなるという自分の姿に愕然としました。

この病気は2011年頃まで3年間続いたのですが、その間に普段考えないことに思いを巡らすことが出来、病気になる前より、いろいろなことが見えるようになったように思います。その間の作品には人物が完全に消えていますが、この経験を乗り越えた今後は、また人を撮ることに挑戦してみたいです。

—小島さんは、世界的に名高い数々のコンペやポートフォリオ・レビューに参加されています。立て続けに輝かしいアート・フェアに参加されているのは、他の作家が特にうらやましいと思う点だと思いますが、その秘訣はなんでしょうか?

一見、華やかに活躍しているように見えるかもしれませんが、その背景には、失敗をし、くやしくいと思う経験が倍以上あります。サラリーマン時代に上司から学んだことと重なるのですが、よい成績を残す為には、失敗を重ねても、途中で挫折をすることなく、挑戦することを心がけています。今年や、昨年に入賞しなくても、来年の審査員は、また、違った見方で、違った人たちかもしれない。ここぞと思った、著名なポートフォリオ・レビューや、コンペには落選してもあきらめずに応募をすることにしています。

—ニューヨークに8年の滞在中に、作家同士の横の繋がりや、縦の繋がりをどのように保っていられましたか? ネット・ワーク作りはどうお考えですか?

僕は、東京でサラリーマンをやっているときに毎晩飲み歩いていたので、もう、そのような生活はニューヨークで、おくることはしませんでした。もちろん、たまには、気晴らしに、友人達と飲みに行きたいと思うことがありましたが、次の日の撮影のことや雑多な仕事のことを考え、極力夜出歩くことは避けるようにしました。それこそ、修行僧のような、シンプルで雑念のない生活を日々送るように心がけました。

—近年、写真関係の教育施設の充実が著しく、美術館、ギャラリー、アート・フェアでの展示会の開催も多く催され、作家を目指す若者や、写真に携わる専門家も、急速に増えてきたように思います。小島さんは、ストレート・フォトグラフィで、世界の都市を撮り続けていますが、自分のやっていることに批評を受けた時、どのように受け取りますか?また、他の作家の作品と自分の作品を見比べることはありますか? 情報過多の今の状態において、作家として、どのような姿勢を取るべきだと思いますか?

僕は、他の作家の作品をみて、自分の作品の作風を変えるようなことはしません。自分で撮っていきたいテーマがあるからです。周りから、いろいろと意見を頂くことがあるのですが、それぞれの考えとして受け取ります。もし、その内容が、自分の作品に役立ちそうなことでしたら取り入れ、理解出来ないことでしたら、それをその人の一つの意見として伺うようにして、特に感情的になることはありません。

—作家としてぶれないのですね。そのお考えは、作家としての小島さんの核であるように思われます。

いろんな人がいて、自分という人間がいると思います。だから、自分にしか作れない写真があると思うのです。だから、周りの作家の作品はまったく気にならず、まず、自分の作品を極めていくことをすべきだと思っています。

—8年間のニューヨークでの作家としての修行生活を終えて、次はどのような活動を予定されていますか? また、作家としての抱負を聞かせて下さい。

来年2014年の3月頃に、蒼穹舎から写真集を出す予定です。ニューヨークで撮った作品のみを含めた写真集となります。いままで、歴史に残る名写真集を数多く残した、蒼穹舎の大田さんと、写真集を作れることをとても楽しみにしています。また、2015年の4月から1年間、ドイツのベルリンのベタニエン・レジデンシー・プログラムに参加します。毎年、14人の現代作家が選出され、その一人に選ばれたことはとても嬉しく思います。また、このプログラムはとても内容が濃く、年に2回展示活動を施設内で出来、ヨーロッパ中の美術、写真機関の専門家に作品を見てもらい、批評を受けることができます。ニューヨークでの生活は、世界の一流レベルのギャラリーや美術館で多くの本物の作品に囲まれ、とても刺激的な環境でした。ベルリンのプログラムで違った良い刺激を受けられることをとても楽しみにしています。

私は、作家として、写真をどこまで極められるかを一生の仕事として、突き詰めていきたいです。とにかく作品の質を上げる為に日々、撮り続けいきたいと思います。


一つ一つの質問の答えは、飾り立てることも、誇張も、遠回しの言い方も無く、簡潔だった。自分を日々見つめ、作品の質をより高める為に、精進することに全意識を集中させているからこそ、 小島さんの温厚で謙虚な人柄は、溢れ出ているのだろうと思った。小島さんの批判の矛先は、他人でも、社会でもなく、己自身であるのだろう。インターネットの普及により、情報の早さから導きだされる便利さは恩恵であるけれども、それに伴い、情報の質の低さ猥雑さはより蔓延し、何が正しいのかを見極めることが困難になってきている。そんな、混乱に満ちた社会の中で、小島さんの作家としての態度は、今後も変わることなく、自身が信じる道を貫き通していくのだろうと思った。


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