ブックレビュー
『あなたの写真を本にしよう』
ダリウス・ハイムズ、マリー・ヴァージニア・スワンソン共著
Publish Your Photography Book
Princeton Architecural Press, 2011
by エレン・レナード
「本は種子、樹木、果樹園、果実……のすべてであり、その後また種子となる……」
――フリッシュ・ブラント(フランケル・ギャラリー館長)
ダリウス・ハイムズ、マリー・ヴァージニア・スワンソン共著『あなたの写真を本にしよう』は写真集を出版したいと考えるすべての人にとって必読の書だ。有益な情報が満載で、最初から通読することもできるが、参考書という性質上、読者がほしい情報を必要なときに選んで読むというのが一番いい読み方かもしれない。ちょうどバイキング料理を食べるときのように。理由のひとつは、この本がもともと写真雑誌photo-eye Booklistのために書かれた記事をまとめたものだということ。デザインも良く、メモを書き込むための余白もたっぷりとってあり、紙質もしっかりしている。私はすでに自分の写真集出版プロジェクトの参考にするために、ページの角を折ったり、重要な箇所にアンダーラインを引いたり、星印を付けたりしているが、そこまで写真集の出版にのめり込んでいなくても、いつか自分の写真集を出したいと思っている人、あるいはただ写真集を見るのが好きだというだけの人が読んでも十分ためになる本だ。
著者たちの豊富な知識を伝えるだけでなく、本書には第一級の写真家やデザイナー、出版関係者など業界の多くの人々の作品や文章が収められている。とくに私が気に入ったのはロバート・モートンのエッセイだ。経験豊富な編集者であり、エージェント、コンサルタントでもあるモートンはこの10年間に起きた出版界の大きな変化、とりわけ「自らの審美眼と直感に基づいて賭けに出ることのできる……勇気ある出版社」がなくなったことを指摘しつつ、同時に短期のオンデマンド・プリンティングに希望の光を見出している。また実際の写真集制作のケーススタディーもとても励みになる。リサ・ロビンソン(Snowbound)、アレック・ソス(Sleeping by the Mississippi)、ポーラ・マッカートニー(Bird Watching)など私の好きな写真家も取り上げられている。長い文章の合間には随所にインスピレーションに満ちた引用や本の写真があり、じっくり読む時間のないときにはこれらを眺めるだけでも十分楽しい。巻末には出版社や流通会社のリスト、写真を出すときの条件など役に立つ付録が付いている。
(中略)
著者たちのアドバイスには経済的出費の伴うものが多い(パブリシストやデザイナーへの依頼から、出版にかかるコスト、販促材料、ポートフォリオ・レビューへの参加などなど)のは、少々気になるところだ。写真集を出版し、しかもそれを物置の片隅に山積みにしておかないためには、十分な時間と金銭的余裕がなければならないのかと思わされてしまう。逆に写真集の出版が収入に結びつく可能性(それを名刺代わりにして助成金をもらったり、レジデントアーティストになるなど)について述べた章があれば、お金がかかるだけだと尻込みせずすむかもしれない。そしてもうひとつの疑問はこうだ。もし作品が真に素晴らしいものだったら? もしそのテーマが1万4000部という売り上げを記録したフィル・トレダノのDays With My Fatherのように、人々の心をガッチリつかむものだっとしたら? 本づくりのステップはどんな場合も同じなのだろうか。
つまるところ、大多数の写真家が望んでいるのはただ単に写真集を出すことではなく、本当の意味でいい写真集を出すことだと思われる。有名な写真家でなくても、また大衆受けするような作品でなくても、出版社がぜひこれは出したいと思うような魅力のあるものを出したいということだ。けれども老子の言葉にあるとおり、語りうる「道」は 「道」そのものではない。成功を手にするためのマニュアルなど存在しないし、最高の写真を撮るための確実な方法もない。出版社の門を開かせるための魔法の呪文も存在しない。それでも基本的な質問に丁寧に答え、実際に写真集を出版するために必要なプロセスについて具体的に解説してくれる本書を読めば、夢にかなり近づけることはたしかだ。
(翻訳:幾島幸子)
エレン・レナード
マサチューセッツ州グロトン在住の写真家/講師
エレン・レナード ウェブサイト
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