窪山洋子インタビュー

ブルームギャラリー ギャラリスト Hiroko Kuboyama Bloom Gallery

F: ブルームギャラリーは大阪にあるギャラリーなんですよね。ぼくがたまたまよらせていただいたときはポートフォリオ展ていうのをやってました。
ギャラリーのある場所も淀川のほとりにあるすがすがしい場所で、来ているお客さん達もポートフォリオを見ながら、あ、こういうアイディアいいね。なんて感じで楽しそうに見てました。

K: ポートフォリオ展というのはギャラリーをオープンしてから毎年8月と2月に2回開かれる恒例イベントになってます。すごく間口をひろげたかたちのイベントでオープンイベントになっています。
ギャラリーは高尚な場所という観念をとっぱらって、初心者からすでに作家として活躍している人まで間口を広げていますので、ポートフォリオ展にかぎってはそれこそ初めてブックとしてまとめてみたという人もいますし、勉強に来ている人が多いです。
この展示はそもそもポートフォリオってなんぞや、という個人的な興味から出発してます。コンペで賞をとったような人はどんなポートフォリオをつくってるのかな、というちょっとした疑問を作家さんに投げかけ、それに応えてもらったような感じでスタートしました。
それで見に来てくれた人が次のポートフォリオ展には出してみよう、ということになることも多いです。
写真を売っているギャラリーというのは少し入りずらいかんじがありますが、まずは間口を広げて気軽にきていただこうということです。

F: ギャラリーを始めてからどのくらいたっているんですか。

K: 今年(2012年)の6月で3年目にはいりました。。

F: ギャラリーを立ち上げたきっかけはどんなことだったんでしょうか。

K: もともとはコマーシャル写真をやられていた写真家の方のスタジオ兼ギャラリーだったんですけど、私がそろそろ仕事を辞めて何か始めようと思い行動し始めた時期と、前オーナーがギャラリーを辞められるというタイミングが絶妙に合い、この話が私にきました。

F: その時に窪山さんはなにをやってたんですか。

K: 金融関係のOLです。企業の福利厚生関連の事務をしてました。もともとは大学で建築・インテリアを勉強していてどうやったら人が集まる空間が作れるか、とか人が集まる仕組みとか町おこしとか、そういうことを勉強していたんです。
それで仕事をしながらお金をためて、1年間写真のディレクターコースにいきました。そこから写真が面白いな、写真を展示する空間作りが面白いと考えて、その次に京都造形大学で博物館の学芸員の資格を取ったときにギャラリーの話しがあったんです。その時が26歳くらいで、私と前オーナーを引き合わせた方がギャラリーで修行していると年とっちゃうからいきなり始めたほうがいいんじゃないか、ってアドバイスしてくれたものですから。
今あるギャラリーの上の階はかつて岩宮武二さんの事務所があったところなんです。森山大道さんがいらっしゃる前かな。(註:森山大道が東京で細江英公のアシスタントになる前に大阪で岩宮武二のアシスタントをしていた時代があった。)

F: ふ〜ん、なんとなく写真のオーラがある場所なんですね。

K: そうですね。なんとなく導かれたというか。

F: 窪山さんはどんなギャラリーづくりをめざしたんですか。

K: ギャラリーめぐりをしていてよく感じることなのですが、入るとシーンとしずかで、ギャラリーの人がいても何となく声をかけづらい雰囲気があって、それが私にとっては違和感があったのですね。そういうやり方も1つですが、大阪で同じようなことをするのはちょっと違うかなと。だから初めての方でも入りやすいような雰囲気づくりを心がけています。ポートフォリオ展のような参加型イベントをやり始めたのも、そのような意識があったからとも言えるかもしれません。
そして、これもギャラリーをやりはじめてからわかったことなのですが、ポートフォリオづくりやマット制作、展示方法などに関しては、独学でやっている方が多いことに気づきました。写真の学校で技術を学ばれた方でも展示の方のノウハウは案外学ばれていない、ということは意外でしたが、それなら私は写真をつくった後の見せ方とか空間作りに特化してやったらいいんかな、と思いました。 そうすることで写真の認知度があがり、写真を買ったり飾るということがもっと世間に広がればいいかなぁ、と。
今はマットのワークショップなんかもやっています。そういうことをしていると、あ、自分でもできるんだな、ということで作品を飾るということへの考え方も変わってきたりして、写真を見る時にも違う目線で見たりとかってなるんですよ。
まず土壌作りからしないといけないと思ってるんです。

F:  それは大切ですよね。日本のフォトギャラリーはまだ写真を買おうという人に親切じゃないところがありますね。写真家もオリジナルプリントを売るということについてプリントのクオリティとか見せ方についてもしっかりした考え方を持っていないことが多いです。
写真を撮るということについて教える人はたくさんいるけれど、写真のビジネスについて教える人がいないのが現状ですよね。

K: もともとOLをやってたのもありますし、友達も写真業界以外で働く方や主婦がほとんどだったりするんですよ。それでこういうのやるんだけど、どうかな、なんて聞いてみたりすると違う業界ではあたりまえにやっていることがやっていない、とかそんなことってけっこうあるんですね。そのような意見を気軽に聞ける環境があるっていうところが私の強みかなっておもってます。
それで、写真のフィールドではこういうことはちゃんとやってんのかな、とか検証していくんですよ。それで企画展とかワークショップとかの企画をつくります。例えば、高品質のプリンターでどこまでの表現ができるかということに対しては、写真家の北義昭さんに撮影後からファインプリントをつくるまでの工程を出し惜しみなく話してもらったり、実際にデモンストレーションしてもらう、とか。そうすると北さんのお話を聞いた人は、あ、そこまでしないとやっぱり作家としてはやっていけないのか、とか感じてくれます。
ですから企画は自分で考えるよりも人から聞いた悩みなどをよりどころにじゃ、こういうワークショップをやればいいんじゃないか、というスタンスでやってます。私が機転をきかせて何かやることを考えるというよりは、作家の悩みを聞いてそれを解決できそうな人とつなげるというようなことをしているだけです。

F: 企画展ばっかりなんですか。

K: いや、最初は企画展とレンタルが半々くらいでした。まあ、レンタルと言っても単にハコを貸すとかではなく、口出しもしますし、初めて個展をする方であれば、展示方法をある程度相談しながら決めたりしています。3年目からはだいぶ企画展の割合が増えていますね。

F: プリントのセールスは考えていないんですか。

K: いや、やってます。今まで場所がなかったのですが、6月より奥のスペースを常設展示とワークルームにしました。作家さんから300点くらい預かってます。バイテンシリーズとしてこちらでフレームをコーディネートしてみたりして昨年展示もしました。それを今度は常設展として毎月作家さんを変えて展示しようとしています。それでだんだん売るということをメインにしていきたいと思ってます。

F: バイテンってエイトバイテンくらいの大きさってことですか。だいたいおいくらくらいで売ってるの。

K: 今は15000円から20000円くらい、あとは作家さんによって多少違いがあります。買う方もOLさんだったりで自分の部屋に飾るというような人です。これからはそこをもうちょっと強化していこうと思います。最終的には大きいプリントを売るというところまで行けたらな、と思ってます。
バイテンシリーズ企画も窓口を広げるということでやりはじめました。

F: なるほど。ニューヨークのジェン・ベックマン・ギャラリーがつくった20X200というオンラインショップではエイトバイテンがエディション200で24ドルで売ってますね。3サイズから4サイズくらいあって、11X14くらいのサイズでエディションは500で60ドル、16X20くらいのサイズでエディション50で240ドル、30x40くらいが一番大きくてエディション10で1200〜2400ドルといった値付けをしています。

K: それはめちゃくちゃ安いですね。(註:エイトバイテンが24ドルということに対して)私も値段はどうしようかな、って悩むんですけど作家さんにもちゃんとペイしたいですから、それを考えるとこのくらいの値段になっちゃいますよね。

F: たしかに20x200のエイトバイテンの値段はちょっと安すぎるけどね。作家の取り分が半分だとしたら1000円くらいでしょ。局紙を使ったら700円だからインクジェットのインク代とか送料などの手間賃を入れると元がとれませんね。
でもこのオンラインサイトでもけっこうすべてのサイズが売り切れている作家もいるんですね。そうすると作家の取り分も60万円くらいになる計算ですね。
エイトバイテンのサイズは販促サービスサイズってことで割り切っているのかもしれません。

ところで、ブルームギャラリーってどうやって成り立ってるんですか。

K: まあ、プリント売ったりワークショップ、暗室、マットの販売とかですね。マットは私が教えています。写真の奥深さを知るきっかけとしてのワークショップはとても重要と感じているので、これから強化していきたいところです。テーマも通常のワークショップよりも少し掘り下げた内容で、本気で作家を目指す人に対して何かヒントやきっかけになるようなものを提供したいなと思っています。そしてそれらを通して作家もギャラリーもみんなで底上げできたらいいな、と。

F: ブルームギャラリーで取り上げている写真家の人はどんな風に集まってくるんですか

K: 出会うきっかけは紹介や飲み会の席が多いのですが、展示の話は私から声をかけることがほとんどです。いきなり個展じゃなくても ポートフォリオ展ならやりやすいので。プリントはずっと続けているけれどまとめる機会がないという人なんかも結構いらっしゃいますから。
それとポートフォリオ展ではフィルタリングはしないのですね。テーマとか決めたりしてやると傾向がかたまってしまうので、それこそネーチャーの横に全然違うテーマがあったりでいいと思っています。ポートフォリオのサイズとかもまったく自由でとんでもなく大きなものを持ってくる人もいますしね。
公募でやってますけど、次の展示で誰が展示するのかというのは決まるまでわからないようにしています。作家同士も誰が出しているかわからないし、あの人が出すから私もだそうというのもないのです。ともかくも自分で決めて出してみたい人がだすのですね。
最初は賞を取っていた人が多かったですけど。

F: 大阪というか関西の人が多いですよね。地域性というのはどうなんでしょうね。

K: そうですね。どちらかと言えばあまり形式にはとらわれない自由度があったり、他人の評価どうこうというよりも、これを見せたいからつくったということを感じるような作品が比較的多いようにも思えます。それに、基本的に話が面白い作家さんが多い気も。その方が一緒に連れて来てくれた作家さんも、また興味深い作品をつくられていることも多く、周りにどんどん面白い作家さんが増えてきている気がします。

F: ああ、クチコミ型ギャラリーなのね。

K: あ、もう完全にクチコミ型です。面白いよっていう人がいたらどうなんよ、ってことになって。けっこう作家さんが作家さんを紹介してくれることが多いのでこいつ面白いんですよっていうかんじで見せてもらって、あ、じゃポートフォリオ展どうってかんじです。
だからこそ今のギャラリーがあるのかな。いろんな縁があって成り立っているとも言えるし、ブルーム自体が「成長する」って言う意味があるんで、いっしょに成長しようっていうことですね。作家さんといっしょにやっていこうと思ってやってます。

十三という場所は他にギャラリーがないので、来てもらったらなるべく長く滞在してもらうようにしようと思ってます。
自転車で来る人も多いんです。橋渡って。橋から見える景色もいいですよ。撮影のついでに来る人もいます。だから雨降ったら今日はお客さん少なくなりそうなんて思います。ギャラリーで座ったら地平線に空と緑が見えるんですよ。展示見たあとも外見てぼーっとしている人もいるんですよ。

F: 欧米のギャラリーでも図書室みたいな空間があってソファが置いてあったり、ビューイングルームがあってすわってゆっくりモニターでも作品が見れたりするところが多いみたいですね。
ギャラリーってもっとゆっくり滞在して、展示や資料を見たり、それからゆっくり考え事をしたりできる空間があるといいですよね。

K: できるだけ長くいてもらうにはどうしたら良いのかを常に考えています。
それから昨年の3.11の地震以来、東京や海外で活動していた方が関西に戻ってきたり、ずっと江戸っ子だった人がこっちにぽんと来たり、人が流動してるみたいです。それも面白いことだと思います。

F: そうですね。3.11をきっかけに西日本に移住したりする写真家もでてきたし。東京一極集中がこわれてきましたね。大阪をはじめとして、日本のいろいろな場所から新しい動きがでてくるとおもしろいですね。

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