アーティスト・ステートメントについて
2009年にレビューサンタフェに参加した写真家へのセンターからの手紙より
アーティスト・ステートメントはその写真家の考え方や、自分の作品を文章でどう表現するかに関わるものです。このことはコンペやレビューへの出品者本人はもちろん、その写真プロジェクトに関係するすべての人にとっても大きな意味をもちます。とくに審査の最終段階において、その写真家の発想や考え方を示すアーティスト・ステートメントはきわめて重要な意味をもちます。写真家がその作品に合致した明確なステートメントやコンセプトをもっていなければ、どんなに有力な写真プロジェクトでも評価を落としかねません。
以下のエッセーはアーティスト・ステートメントに必要な要素について述べたものです。著者はラディウス・ブックスの共同設立者でコピーライター、書籍プロデューサーでもあり、Center理事長を務めるジョアンナ・T・ハーレー氏。同氏はこれまで数々のレビューやコンペでレビュワーや審査員を務めています。
アーティスト・ステートメントについて
by ジョアンナ・ハーレー
過去10年間に私が関わったレビューでよく見かける最大
の問題のひとつは、自分の作品について説得力のある形で話したり書いたりできない写真家が少なからずいるということです。(もうひとつの問題は明確なビジョンの欠如――「面白味のないきれいなだけの写真」――ですが、これについてはまた別の機会に。)
作品について語るのは作品自身であり、たとえどんなに言葉を尽くして説明しても、もともとのコンセプトがしっかりしていなかったり、アイディアをうまく形にできていなければ、それを埋め合わせることはできないと私は強く信じています。けれども写真家が自分の作品を認められたい、進歩したい、あるいはレビューで可能なかぎり高い評価を得たいと願うのであれば、良いアーティスト・ステートメントは不可欠です。私はこれまでの体験を通じて、自分の作品について明確に話したり書いたりできる写真家は、人の心を動かすパワフルな作品を生み出すということを実感してきました。
写真家にその作品について話したり書いたりするよう求めるのは、そもそも矛盾したことだという議論もあるでしょう。もし言葉で表現できるのなら、ビジュアルアーティストになどならずに作家になっているはずだ、と。けれどもフィクションであれノンフィクションであれ、優れた文芸作品は読者をいくつもの異なったレベルで惹きつけるものであり、優れたアートや写真もそれと同様なのです。そのアーティストのビジョンや制作のプロセスを明確に表現した文章を読むことで、作品を見るという体験の奥行きが深まります。またレビューにおいては(そこでは、写真家は完成されたプロジェクトではなく、アイディアの初期段階を提示することが多いのですが)、そのアーティストの〝企み〟への手がかりがあるかどうかで、レビュワーが余り好意的でないコメントを出すか、建設的なフィードバックを与えられるかの違いが生じるのです。私が必ずアーティスト・ステートメントを読む理由はそこにあります。
良いアーティスト・ステートメントの必要条件は、明確さ、簡潔さ、謙虚さ、そして自分がインスピレーションを受けて生み出した作品に対する鋭い認識です。けれども何よりもまず必要なのは、なぜその作品を制作しようと思ったのか、それによって何を表現したいのかということ――いいかえれば作品のコンセプトです。それはシンプルなものでもかまわないのです。
良い例をひとつあげましょう。かつてジュリー・ブラックモン〔2006年にサンタフェ センター・アワードで最優秀賞を受賞〕が、あのような写真を撮ることになった経緯について話すのを聞いたことがあります。彼女は大学で写真を勉強したあと何年も専業主婦をしていたのですが、あるとき家にアートを置きたいと考え、何かお金を出して買うのではなく、自分で気に入ったものをつくればいいと思ったのだそうです。一七世紀のオランダの画家の作品が大好きで、自分は家にいるので、自然と子どもが被写体(subjests題材)になったのだ、と。
その結果はご存知のように、身近なものを題材(subject)にした新鮮で今日的な、非常にオリジナリティの高い作品です。歴史的な感覚に訴えかけ、アイロニーやおかしさをたたえながら気取りも、自意識過剰なところもない。インスピレーションに満ちた彼女の作品は、偶像的とも言えるほどの地位を獲得しています。その彼女のステートメントはダイレクトで短く、そのことがかえって作品の背景にあるコンセプトを拡大し、同時にそれ自身に語らせるものでした――ステートメントの意味とは、まさにそれに尽きるのです。
ジョアンナ・ハーレーは出版の分野で30年以上のキャリアをもち、これまで編集者、パブリシスト、エージェント、書籍プロデューサー、発行人として、大小の出版社から数十冊にものぼる写真集やその他のテーマの書籍の出版を手がけてきた。ラディウス・ブックスの共同設立者。2005年からCenter理事長。
(翻訳:幾島幸子)